就活で袖にされた
集英社にリベンジ
―― 須藤さんは今、お勤めされて一年目ですよね?
須藤 はい。去年の就活では出版社も受けたんです。それこそ集英社も受けたんですけれど、袖にされて……。
村山 今回、リベンジしましたね(笑)。
須藤 力試しで今の会社を受けたら、提出した企画を社長に気に入ってもらえた感じです。今回の受賞のことを伝えたら、「僕は千分の一の才能を見つけたんだね」ってホクホクしていました。
村山 それはよかった。いい社長さん。
須藤 すごく読書する人で、「今日は村山さんと対談です」と言ったら、「僕は『天使の卵』と『星々の舟』が特に好きです」って。
村山 絶対いい人だ。よろしくお伝えください(笑)。
―― プロの小説家になって、緊張や不安や期待など、どんな割合ですか。
須藤 私はプロになったんでしょうか……。みなさん「自分は小説家だ」ってどのタイミングで言うんでしょうか。
村山 今また、すごいなと思いました。私は恥ずかしい思い出があって。五作目の『青のフェルマータ』を出した頃に「プロとしては」と言ったら、当時の担当者に「まだ自分からプロとは言わないほうがいいですよ」と言われたんです。穴掘って隠れたいくらい恥ずかしかった。須藤さんはちゃんと自分を俯瞰できていて、偉いなあ。
須藤 私は今まで人にがっかりされることが多かったので、期待に応えられるんだろうかという不安があります。ちょうど編集さんに次の作品のアイデアを渡したところなんですが、何を言われるか戦々恐々としています。
村山 物事を悪いほうに考えるタイプ?
須藤 ノーガードで刺されるくらいなら初めから刺されるポーズをとっておこう、みたいな感じです。それに、これまで書いてきたものは日本の女子高校生が主人公だったりで、『ナタリー』はむしろ自分の中で異質寄りなんです。文体も今回は児童文学っぽいですが、普段はもうちょっと喋り言葉ばかりの、自分ではユーモアがあると思う文章を書いていて。そのふたつくらいしか文体の選択肢がないので、今後、文体をどう選んでいくかが課題だと思っています。
村山 私は、文体はその作品が望むものに沿っていくという感覚があります。今回も、チェリータウンという町の少女が主人公だからこの文体になったわけで、最初にこの文体で書いてやるぞ、と決めて書き始めたわけじゃないですよね?
須藤 はい。
村山 須藤さんはいろんな文体で書けると思う。というのも、『ナタリー』の終盤の一連のシーンなんて、一行一行、すごく大事に丁寧に、書き手の頭にあるものを読者にイメージさせる順番で描写していると分かるから。おそらく一人称でも三人称多視点でも、書こうと思ったらお書きになれると思います。文体のことは、ご自身の生理感覚に任せるのが一番いいですよ。
須藤 ありがとうございます。不安になっても仕方ないので、とにかくどんどん書き続けられたら、と思います。
村山 二作目も楽しみにしています。