敬語義務化の原点は「客前で胸ぐらのつかみ合いが起きて……」 

これまで北原氏が直接出資した店舗は11店舗あるそうだが、そこでもこの10年間で「3~4人しか辞めていません」とのこと。

北原氏の会社は徐々に事業を拡大し、美容室だけでなく、整体やピアノ教室など幅広い分野にも進出。

現在では全国に300店舗以上を展開し、コンサルティング事業も手がけるようになった。

北原孝彦氏が代表取締役を務めるLaboratous株式会社のHP。社内での敬語を義務化している
北原孝彦氏が代表取締役を務めるLaboratous株式会社のHP。社内での敬語を義務化している

この成長のベースにあるのが、社内での敬語の義務化だという。

その発想の原点は、北原氏がかつて勤めていた美容室でのある出来事にあるという。

「昔勤めていたお店では、生意気な子たちが育ってしまうこともあって。あるとき、後輩が先輩に『そういう態度だったら、俺たちももういいわ!』と怒り、営業中にお客様の前で胸ぐらをつかみ合ってケンカになることもあったんです(笑)。

そうした経験を通して、『どういうときにケンカが起きるのか』と考えたのですが、入社当時から衝突するわけではなく、距離が近くなりすぎることでトラブルが起こるんですね。そこで、『適切な距離感を保つには、言葉遣いを見直そう』と思い、敬語の義務化を発案しました。

やっぱり組織というのは、ルールとして明確な基準を設けないとうまく機能しないものなんです。私たちの会社では、その基準を“敬語”にしました。

目に見えた効果もありました。たとえば、みんな言い訳をしなくなり、ネガティブな発言も減ったと思います。自然と、ちゃんと仕事をしに来る人たちが集まる会社になりましたね」

北原氏の会社での社内会議の様子
北原氏の会社での社内会議の様子
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北原氏に、『5時に夢中!』内で議論されていたテーマについても尋ねてみた。

「もし自分の子どもが大人にタメ口を利いたら、怒りはしないですけど、注意はしますね。その子が大きくなったとき、きっと苦労するでしょうし。

今の時代って、炎上系インフルエンサーとか、大人になっても異常な行動をする人が増えているじゃないですか。自分の子どもには、そうはなってほしくないので。

なぜそう考えるかというと、僕自身の生い立ちも関係しているんです。実は、両親が警察官なんですよ。だからすごく厳しく育てられましたし、敬語の義務化を取り入れたのにも、そうした部分が影響していると思います」

最後に、マツコ が指摘するような「敬語が不要な時代」が本当に来ると思うかを尋ねると、「コンピューター同士が会話するような世界が来たら、たしかになくなるかもしれません。

でも、たとえばホテルの接客スタッフが『いらっしゃい! よく来たね。ここに記入してくれる?』なんて話しかける時代は、ちょっと想像できませんね」と答えた。

言葉は時代とともに変化していくものだが、果たして、数十年後の日本語はどのようになっているのだろうか――。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班