「プレイの後ですね」

突然の依頼にも関わらず快く取材を受けてくれたのは、関東の某県で小児科医として働く、医者のSさん(50代)だ。

──まりてんさんとは、知り合ってどのくらいでしょうか?

S(以下同) 7年くらいですね。

──最初の出会いは?

その頃、まりてんさんは池袋で風俗店の店長兼キャストをやっていて。面白い子がいるなと思って、予約して会いに行きました。少し話しただけで、「お医者さんですか?」と職業を当てられたことが、印象に残ってますね。

──今では、どのくらいの頻度でまりてんさんと会ってるんですか?

まりてんさんが失踪して精神科病棟に入ってしまったときや、コロナ禍のときは会えてないのですが、コロナ禍が明けてからは1か月に1度くらいの頻度で会ってます。整体とか美容院に行くみたいな感覚ですね。

──まりてんさんの、どんなところが魅力的ですか?

なんでも開けっぴろげに話してくれるのがいいですね。それが演技なのか素なのかもよくわからない。だからこそ、こちらも話しやすいですね。

──普段、まわりに話しやすい人はいないのでしょうか?

医者という職業柄、プライベートでも医者として相談されたりすることが多くて。リラックスして話せる人ってなかなかいないですね。

五反田駅近くのファストフード店にて。小児科医のお客さんにインタビュー
五反田駅近くのファストフード店にて。小児科医のお客さんにインタビュー

──たとえば、今日は2人でどんなお話をしてたんですか?

今日は発達障害についての話をしていました。

──それはどんな話でしょうか。

お互い発達障害みたいなとこあるよねって。なにを持って障害とするかって話はあるんですけど。

“標準偏差”ってわかりますか? 標準偏差で言うと、だいたい100人いたら上の2~3人と下の2~3人を2SDって言うんですけど。検査でも2SD超えると異常値だって言うんですよね。

医者ってたぶん、学校で100人いたら成績がトップ1~3番目くらいじゃないですか。そう考えると医者って2SD超えの集まりだし、まりてんさんも風俗嬢で全国No.1になってるから、業界の中で2SD超えてるから異常者だよね、みたいな話をしてましたね。

──なるほど。そういった話は、プレイの前に話すのでしょうか。

プレイの後ですね。

──つまり、今のは全部ピロートークでの話だったんですね。

そうですね。

小児科医という職業柄か、それとも、プレイの後という状況からか、Sさんは凛とした表情で穏やかにインタビューに答えてくれた。

インタビューを終えて喫茶店を出ると、時刻は13時だった。歌舞伎町のラブホテルで17時スタートの次のお客さんと会うまで、まりてんさんは一度自宅に帰るということだった。

──家に帰ってお昼ごはんを食べるのでしょうか?

まりてん(以下同) 出勤中はご飯を食べないようにしてます。もしお客さんがご飯を振る舞ってくれることになったときに、一緒に食べれるようにしておきたいので。

出勤中はご飯は食べないというまりてんさん
出勤中はご飯は食べないというまりてんさん
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──では、家に帰ってなにをするのでしょうか?

YouTubeの動画のサムネ作成や、ファンクラブの月1イベントの準備などをしてきます。また17時に歌舞伎町のホテル前で会いましょう!

そう言葉を残すと、まりてんさんは目の前でタクシーに乗りこみ、颯爽と帰宅していった。

#2に続く

取材・文・撮影/山下素童

〈プロフィール〉
まりてん

1990年愛知県生まれ。妹が亡くなった影響で母親が新興宗教に入信したことで、娯楽や交際が制約されていた、いわゆる「宗教2世」。2009年、美術大学のデザイン学部へ進学。大学4年生の冬にデリバリー・ヘルス店に入店し、3ヵ月キャストとして勤める。2013年、美術大学を卒業し、広告制作会社にWEBデザイナーとして就職。3年半で退社。2016年、25歳の時に激戦区東京・池袋にて風俗店を立ち上げる。池袋西口ホテル街を中心にデリバリー・ヘルスを運営。2019年3月、経営のストレスから自殺未遂。休養後に大手事業会社に中途社員として就職し、WEBプランナーを務める。2020年より風俗嬢に復帰し、傍らYouTubeチャンネル『ホンクレch‐本指になってくれますか?‐』を開設。現在登録者23万人突破。

『聖と性 私のほんとうの話』
まりてん
『聖と性 私のほんとうの話』
2025年1月17日
2420円(税込)
176ページ
ISBN: 978-4065384411
ミスヘブン全国1位!数奇な半生を送ったカリスマデリヘル嬢がはじめて明かす宗教2世、男性観、マーケティング、プロモーション術! 日本最高給の風俗嬢のお仕事は「心の接客」だった――。 なぜ男たちは彼女に惹きつけられるのか? 「まりてん」の秘密のすべてがここにある。 とくにいまの世の中では、ネットリンチのように、「やらかしてしまった人」に対するまなざしが厳しすぎると感じています。清廉潔白さばかりを求められる世情ではありますが、人間らしさとは本来、矛盾を抱えてこそのものではないでしょうか。その人間らしさに触れることができる風俗のお仕事(=とくにピロートーク)が私は好きでたまりません。 過去にいろいろなインタビューを受けてこういう話を繰り返していると、記事につくコメントには決まって「この仕事が楽しいなんて病んでる」と書かれます。 そもそも100パーセント心身ともに健康な人間なんているのでしょうか? 病的な部分こそ人間らしさであり、愛おしいのに。その愛おしさは宗教に馴染めなかった自分を肯定してくれるものだからこそ、なおさらなのかもしれません。 (本文より)
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