女優業を経験しているからこその苦労

「まず何が大変だったかというと、語彙力というか、文章力がないので、自分の頭の中にあるビジョンを落とし込む言葉が見つからないこと。

例えば、女の人が階段を上がっているとしたら、どういう階段で、どういう足さばきで、腕をどういうふうに振ってるのか、顔はどこを見てるのか…どういう女性だというイメージはあるんだけど、それを文章にできなかったんですよ。

それまで、人と関わって、自己表現するのが仕事だったんだけど、今までちゃんとした言葉でのコミュニケーションができていなかったんだな、なんて思ったりしましたね」


『週刊明星』1987年2月19日号より (撮影/今津勝幸)

『週刊明星』1987年2月19日号より (撮影/今津勝幸)

女優業を経験しているからこその苦労もあった。

「あとは句読点をどこで打つかですね。私はセリフをずっと喋ってきましたけど、台本に書かれている句読点はブレスの位置。セリフの感覚で小説を書くと、句読点の多い文章になってしまったんですよ。

作品を発表したときに、『やっぱりセリフで喋っていたから句読点多いのかな』というコメントをいただいて、そこでハッと気づいたんです。

小説での句読点は、場面が微妙に変わるときに打つものだっていうことを、文章を書きながら覚えていきました。

ただ、句読点を入れずに引っ張りすぎると、今度は情報量が多くなるので面白くなくなる。小気味よく展開していくことができずにもどかしかったです」

今年1月には小説が、『国守の愛~群青の人・イエーガー~』のタイトルで縦読みマンガ化され、 DMMブックス、LINEマンガなどにて配信された。小説を形にする以上に、達成感を感じているという。

「私としては、自分が書いた小説は書籍化したいわけですよ。でも、あの文章ではまだ無理な話だということもわかっています、自分で。

私、自分で出版社さんに原稿を持ち込んで、担当の方から面と向かって『うちでは無理です』と断られたこともあるんです。

でも、マンガでは絵があって、セリフが書いてあるので、みなさんに伝わりやすい。まだ原作は続きがありますので、それをまた続けていきたいと思っています」