ボーナスと基本給 どっちでもらうほうがお得?
「初任給の引き上げとして取り上げられている事例は、『30万円』『41万円』などと記載されている通り、正確には毎月支払われる『基本給』のことを指しています。基本給が上がる一方で、年収に対する賞与比率を減らし、その分を基本給に上乗せしているだけであれば年収ベースでは変わりません。基本給・賞与・諸手当などを合算した“総報酬”を考える必要があります。
また、初任給が高いからといって、その後の報酬も高くなるとは限りません。というのも、企業の給与原資が一定である以上は、今回の初任給引き上げ分は、必ず既存社員の人件費からまかなわれる形となります。
もちろん既存社員一人ひとりの給与額そのものを減らすと反発が必至であることから、多くの企業では人件費の総額を維持するために昇給率を減らしたり、昇給・昇格する人数を減らしたりするなどして、“気づかれないように”既存社員の人件費を調整するでしょう」
一見、魅力的に見える新卒初任給の大幅な引き上げでも、裏ではこのような“からくり”がある可能性があるわけだ。ほかにも、福利厚生や退職金の有無など、実質的に会社からどれほどのお金が支払われているのかは、毎月の給与だけでは判断できない。
ただ年収ベースがたとえ変わらなくても、賞与の代わりに基本給がアップすることについては、社員にとって大きなプラスではないかと安藤氏は話す。
「賞与は本来、会社の業績に応じて変動する後払い賃金という意味合いが強いです。実際、多くの会社では、賞与規定に『会社業績によって変動する』だったり、『賞与支払い月時点で会社に在籍している人を対象に支払う(つまりその時点で辞めることが確定している人には払わない)』といったルールが定められています。
ですから、トータル年収は同じでも賞与を減らしてその分、基本給が上がるほうが本来、社員にとっては毎月固定額として必ずもらえることを確約されているために喜ぶべきことなのです。見通しの立てにくい賞与に生活を頼っていると、長期的なライフプランも立てづらくなるでしょう」
しかしおもしろいことに、安藤氏が実際に人事として社員の声を聴いたところ、総年収を基本給として均等12分割(12か月に割る)されるよりも、毎月の基本給を減らしてでも賞与として年2回インパクトのある大きな額をもらった方が嬉しいとの回答が多かったという。
「まさに『合理的にいいことが、必ずしも心理的にいいこととはいえない』好例です。年1回、もしくは年2回大きい額が支払われる賞与は、働く個人にとって1年間の中での“節目”という効果もあるのでしょう。その意味で、“賞与を減らし基本給が上がる”ことは、今まで賞与が担っていたモチベーションを上げる効果が薄まってしまう可能性は考えられます」