「一石三鳥」のバウアー効果

そして今オフ、DeNAは上茶谷大河、浜口遥大、2人のドラ1を手放すという勝負に踏み切る。特に浜口とトレードでソフトバンクからやってきた三森大貴は怪我に苦しみながらも常勝ホークスの主力級の内野手だった。

三森の加入によって、DeNAの泣き所でもある球団最年長野手の宮﨑敏郎や、ほぼフル出場の牧のバックアップ問題が一気に解決する可能性が高い。貴重な先発左腕・浜口を放出してもほしい人材だった。そんな決断ができたことも、バウアーの復帰のメドが見えていたからかもしれない。

さらに、2024年のDeNAを悩ませていた計算できる先発ピッチャーの手薄さもバウアーの加入で解決する。中4日での登板を希望し、昨季のメキシカンリーグでも10勝を挙げていて今も衰えは心配なさそうだ。また前回所属時には、今永をはじめ多くの若手投手たちにアドバイスを惜しまず、投手陣の技術・メンタル面の底上げにも寄与した。

開幕当初は制球が定まらずバウアーと同じく苦労したアンドレ・ジャクソン投手が通訳を通じて助言を求めた際にも、快くそれに応じたという。バウアーの知識と経験は、その勝敗以上に大きな影響をもたらすに違いない。

また、バウアーといえば、球場内にカメラを持ち込み、自ら発信することも欠かさなかった。DeNAは昨年末に日本一までの軌跡をたどったドキュメンタリー映画『勝ち切る覚悟 〜日本一までの79日〜』を公開。球団はそれまでも多くの「舞台裏」ドキュメンタリーを公開し、本作はシリーズ第9弾となっている。

リーグ3位から日本一までの軌跡をたどるドキュメンタリー映画『勝ち切る覚悟 〜日本一までの79日〜』
リーグ3位から日本一までの軌跡をたどるドキュメンタリー映画『勝ち切る覚悟 〜日本一までの79日〜』
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まだまだダグアウトにカメラが入ることに積極的ではない球団も多い中、多角的に野球の魅力を発信し集客につなげようとするDeNAとバウアーの目論見は多くの部分で合致する。また、自身の投球を科学的に分析しようとするバウアーは、野球の徹底的なデータ解析を目指すDeNAと補完し合う関係にもなり得るだろう。

「そして一人の選手として一番になるのが好きなんだ」

サプライズ映像で、バウアーはこう話す。

優勝を目指せるチームで高いモチベーションでプレーでき、泣き所だった内野手に三森を獲得、先発不足を解消する計算できる投手補強。バウアーの復帰は、まさに「一石三鳥」にもなり得る。

今年こそ昨季のような「下剋上日本一」ではなく、リーグ優勝からの「完全日本一」を見せてくれるだろうか。

文/西澤千央