球場全体が静まり返るほどバウアーが激怒したシーン
2023年7月1日、横浜スタジアムで行なわれた中日戦。6回2死一、二塁の場面。打者・岡林勇希が内野安打を放つと、一塁ランナーの龍空が二塁ベースを蹴って三塁に向かったものの、二塁ランナーだった石橋康太は三塁で止まった。二塁手の牧が龍空を三塁に追い詰めると、今度は石橋が本塁へスタート。牧はキャッチャーの伊藤光に送球したが、結果的にオールセーフとなってしまった。
この試合を現地で見ていたが、まるで逆回転の映像を見ているかのようで、何が起こっているかよくわからなかった。ただひとつ鮮明に憶えているのが、
バウアーがマウンドで激しく咆哮していたことだ。
その後、二死満塁と再びピンチを招いたバウアーだが、高橋周平をピッチャーゴロに打ち取ると、彼はボールを一塁に送球せず、怒ったように自らドスドスと走って一塁に駆け込みアウトにした。
そのバウアーの激しい怒りを目の当たりにして、球場全体が一瞬シーンと静まり返ったほどだった。そのときの心境についてバウアーはこう明かしている。
「かなり腹が立った。誰に対してではなく、強いて言うなら自分自身。本来なら7、8、9回と投げたかった中で、ああいう状況になったことに腹が立った。あの回は自分としてもいい投球ではなかったし、自分のエラー(記録は安打)もあって…」
そして「優勝するチームの野球ではなかった」と続けた。
サイ・ヤング賞獲得など個人タイトルでは輝かしい成績を持つバウアーだが、チームでの優勝経験は一度もなく、「優勝」の二文字への渇望は強い。その証拠に同シーズン後半を怪我で終えたバウアーは、当時、去就について聞かれた際、3つの残留条件を提示している。
「個人タイトルを狙えるチームであるか」
「ファンを沸かせるチームであること」
「優勝を狙えるチームかどうか」
MLB復帰を強く願っていたバウアーが翌年もDeNAで投げることには難しい現実があったものの、当時のDeNAが、残留条件としても挙げた「優勝を狙えるチーム」から遠かったことは否めない。昨季の「下剋上日本一」が、バウアーの望む世界を少なからず近づけたことは間違いないだろう。