「女性器切除」の残酷な風習が今でもなくならない…

家父長制社会ではさまざまな要素が複雑に絡み合っている。それは、世界各地で女性器切除(FGM)が根強く残る現状にも大きく影響している。

アフリカや中東の一部で広く見られるこの風習の起源は、紅海沿いでの奴隷貿易にさかのぼると考えられている。当時、女性の奴隷は性的奴隷として売買されていた。

当時も今も、女性器切除は性行為をできなくするか、あるいは耐えがたい苦痛を伴うようにするために行われる。目的はただ、結婚前の少女の処女性と結婚後の女性の貞節を守ることである。だから、ある意味で、これは女性を将来の夫に縛りつけようとする暴力的な性的束縛であるとも言える。

世界保健機関(WHO)によると、現在存命中の2億人以上の女性や少女が女性器切除を受けており、さらに毎年300万人がその危険にさらされている。しかも、母親や親族の女性が少女にそれを強要することが多い。

スイスのジュネーブにあるWHO本部
スイスのジュネーブにあるWHO本部
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自らがその身体的、精神的な苦痛を経験したにもかかわらず、年配の女性たちは女性器切除の継続を許し、時には法の目をかいくぐって娘に切除を強制する。母親らは、切除が求められる世界に娘を入れるための準備だと信じている。

この通過儀礼を受けなければ、娘はコミュニティのなかで夫を見つけられないかもしれないと母親たちは恐れているのだ。

そして社会で自分が果たすべき役割は、私たちのアイデンティティに組み込まれている。自分がその役割を果たさなければ社会が崩壊するかもしれないと考えるとき、そのアイデンティティはさらに重要になる。

人々が文化に縛られてもいると、悲惨な結果が生じる。その結果、想像できないようなことが実際に起きる。

2007年、エチオピア南部の大地溝帯で暮らすアルボレ族の長老が、政府や慈善団体や宣教師の圧力を受けて、コミュニティでこの風習の廃止を決定したところ、当事者の少女たち自身がそれに抵抗したという。

この決定時に居合わせた社会人類学者のエチ・ガバートが、あるティーンエイジャーの言葉を書き留めていた。

「父や祖父から伝わる文化なのです。私たちの原点です。手放したくないのです」。

「文化は捨てられません。母が切除してくれないのなら、自分で切除します」と少女は言ったという。

悪しき風習に身を委ねることは、道義的には非難されるべきかもしれないが、ほかにほとんど選択肢がない場合、現実的だと思える場合もあるのだ。