お酒を断って、男性に頼らず自分の足で立つこと

「アルコール依存症の女性と接していると、生きるためのスキルを学んでこなかったのだな、と感じる人が数多くいます。男性中心の社会で、女性は父親や夫の顔色を見ながら、『はい、わかりました』と、自分の意見を言わずに育った。困ったことがあっても全部、自分一人で抱え込んでしまう。つらい体験をジッと心に閉じ込めている。とても苦しくてそのつらさを紛らわせるためにお酒を飲む。そんな生き方しか知らない。

支援施設に来所することでリズムある生活を取り戻し、自分と同じような経験をした仲間と出会い、頑張って断酒している人と接する中で、最初は旦那さんや身内の愚痴とかをポツリポツリと話しはじめる。そして徐々に、ミーティングで話す言葉が増えていく。恐ろしいほど自分を表現する術がなかった人が、言葉を得て自分のことを語り出すんです」

自分の気持ちを言葉で相手に伝えること。アルコール依存症の女性の回復への原点は、そこにあると小嶋さんは考えている。

さらに、話す術を知るだけでは不十分だと、彼女は言葉を続ける。

「アルコール依存症の女性に限ったことではないのですが、いろんなことから逃げる人は多い。幼少期に受けたつらいことを両親のせいに、家庭内のいざこざを夫のせいにしたり。中には自分の中の心的外傷と向き合わず、あの人が悪い、この人が悪いと人になすり付けてばかりいる。そう思っているうちはダメです。

虐待を受けたことも暴力を振るわれたことも、つらい体験を事実として受け入れ、仲間とのミーティングの中で言葉にしていく。なんで自分が依存症になるぐらい、お酒を飲まなければならなかったのか。お酒に逃げずにこれからの人生をどうしていけばいいのか、自分の言葉で話していく。

まっ、そう言うのは簡単ですが、嫌なことがあったり、生きづらさを感じるとお酒を飲んでしまうのは、身体に染みついた習慣です。お酒を止めると決意しても、長年慣れ親しんだ生活に戻ってしまうことは珍しくありません。断酒を続けるのはそりゃ大変ですよ。

でも、そこは訓練ですね。支援施設に通い、何とかするんだと思い続ければ、再飲酒をしても何とかなるものです」

「家は回復できる場所ではない」女性アルコール依存症患者にとって、頼りたい家族が断酒の「大きな壁」となる日本特有の事情_4
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途中で通所を止めてしまう人もいるが、最長2年間の施設での支援で、働けるようになり、生活保護に頼らず、生きていけるようになった女性は何人もいる。家族と一緒に暮らし、断酒を続けている人も数多い。

施設を卒業してもバーベキューやカラオケ等、イベントには声をかける。自助グループの例会に小嶋さんは今も参加しているが、その席では施設で回復した女性たちと顔を合わせる。施設から離れても断酒を続けている限り生涯仲間だ。

アルコール依存症の女性の回復の難しさを理解している小嶋さんは語る。

「男性はお酒を止めて、社会に戻ることが回復だと思っている。女性は社会復帰も大切ですけど、お酒を断って、男性に頼らず自分の足で立つこと。家庭があっても離婚しても自分の人生を歩んでいるという自覚が持てれば、それが回復ですね」

協力/女性アルコール依存症者の支援組織NPO法人「あんだんて」代表 小嶋洋子さん
文/根岸康雄
写真/shutterstock

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根岸康雄
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