読者アンケートや部数というデータ
確かに、「こうすればウケる」という誘惑は強力で、編集者から「あの漫画はこれでヒットしているから、そういうのを描いてみたら」と言われたときどうするかは、なかなか難しいところです。
特に、『少年ジャンプ』は人気がある名作だらけですし、読者アンケートや部数というデータを突きつけられると、なかなか抵抗しにくいと言えます。僕も自分の漫画がそんなにウケていないときは、「ちょっと取り入れないといけないのかな」と、ぐらつきかけたことがありました。
たとえば、『ジョジョ』の読者アンケートがあまりよくなかったころ、編集者から「他の漫画で、キャラクターが生き返ったときのあの回の人気がすごかったから、『ジョジョ』でもやろう」と提案されたことがありました。
人気があるキャラクターが生き返ると、読者は「あいつが帰ってきた!」と嬉しいもので、その気持ちはよくわかります。一瞬、「やりたいな」と思いましたが、先祖からのつながりを描いている『ジョジョ』でそれをやったら、話がむちゃくちゃになってしまうでしょう。
また、僕の好きなゾンビ映画では、生き返ると価値観や哲学が逆転して、自分の愛するものを殺さなければいけなくなってしまうので、「やっぱり一度死んだ人間が生き返るのはよくないよな」と考え直しました。
生き返らせることはしないけれど、その分、人間が生きるとは、死ぬとはどういうことかを『ジョジョ』という漫画でちゃんと描こうと、改めて心に決めたのです。
それで人気が出ずに連載が終わる可能性もありましたが、ブレなかったことは結果的に正解だったと思います。
「最近ウケてないから、テコ入れで世間でヒットしている○○みたいなキャラクターを入れなきゃ」と気持ちが揺れたり、編集者から「もっと売れ線を狙え」と言われたりしたら、「それは今描こうとしている漫画にハマるのかな」と検討してみることをお薦めします。
だいたいの場合、「ハマらない」ことの方が多いんじゃないかと思いますが、そういうときは、自信を持って自分が描こうとしている漫画をきちんと描ききるべきなのです。
ウケないのはむしろ描きたいことを深く描いていないからであって、ブレずにどんどん突き詰めていく方がよい、というのが僕の考えです。
プロとして「売れないといけない」というプレッシャーはありますが、「こんな地味で不細工なキャラクターが世の中に受け入れられるんだろうか?」と不安に思っても、その漫画の「基本四大構造」がちゃんと融合していれば、意外と大丈夫なものです。
でも、ヒットするかしないかなんて、売れている漫画家が本当にわかって描いているかと言えば、そんなことないんじゃないかな……と、僕は思っています。
漫画・イラスト/書籍『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』より
写真/shutterstock













