作り手の思いを強く反映した“反戦歌”「ハナミズキ」
2004年の「ハナミズキ」は、「もらい泣き」とは打って変わって、曲も詞も短期間でできた楽曲です。メロディーは「もらい泣き」のころからありましたが、作曲をしたマシコさんは一晩で曲を書きあげたそうですし、一青さんも20分くらいで一気に歌詞を書いたと話していました。
この曲の歌詞も、「もらい泣き」と同様にすぐには理解できないかもしれません。これは一青さんが、2001年9月11日にアメリカ同時多発テロが起きたとき、ニューヨークにいた友人のことを思って書いたものです。
〈君と好きな人が百年続きますように〉という歌詞から、この曲をラブソングだと捉えている人も多いでしょう。
でも僕たちは当初から、これは反戦歌だと明確に意識していました。〈君〉だけでなく、その〈好きな人〉も含めて、〈百年続きますように〉という気持ちをだれもが持てれば、きっと戦争はなくなるはずだという一青さんの祈りがここには込められています。
〈水際まで来てほしい〉というフレーズは、島の上に位置するニューヨークの水辺まで、救いの船がやってくるイメージです。ニューヨークにいる友人を案ずる気持ちを、このような表現に落としこめる人はなかなかいません。
通常のプロデュース・ワークでは、上がってきた歌詞を検討して、いろいろな修正を依頼します。でも一青さんがこの歌詞を書いてきたとき、一言も直せないなと思いました。たしかに意味のわかりにくいところもありますが、それくらい筆圧が強く、彼女の思いが綴られていたからです。結局、この曲の歌詞については一語一句たりとも直していません。
アレンジは彼女の反戦の思いを反映して、ジョン・レノンの「イマジン」のような仕上がりを目指しました。「間奏のストリングスがユニゾンでメロディーを弾くところがいいですね」と言われることがありますが、そこはアレンジャーとして狙ったところです。すべての弦楽器がひとつのメロディーを弾くことで、みんなでひとつになろうという反戦のメッセージを強調しました。
「ハナミズキ」は04年2月にシングル・リリースされ、50万枚を超えるセールスを記録し、「もらい泣き」と並ぶ一青さんの代表曲になりました。
いまなお「ハナミズキ」は多くの人に愛されていますが、その理由として、サビが三声のハーモニーでできていることが大きいと思っています。主旋律だけだったら、ここまでのヒット曲にはならなかったはずです。
同じく三声のハーモニーでできている「もらい泣き」のサビは、メロディーに対して一度、三度、五度というふうに、きれいにハモらないようなラインを作りました。一方で「ハナミズキ」のハーモニーは、上のハモりも下のハモりも、きれいなラインでコーラスを入れています。だからどのラインも覚えやすく、中高生が合唱で歌いやすい。それがこの曲を長く歌い継がれる曲にした、大きな要因なのではないでしょうか。
そのようなプロデュースの意図を、聴く人は必ずしも感知しないかもしれません。でもそこに込めたエネルギーの分だけ、聴く人には強く届くのだと信じています。
取材・構成/門間雄介 撮影/石垣星児