わずか10円の値上げすらも葛藤する理由

「私たちの店にはたくさんの常連さんが来てくださります。中には毎日来る方もいます。そうなると、10円、20円の値上げだとしても、月に換算すると大きく変わってしまいますよね。そう考えると、簡単には上げられないなって思ってしまうんです。それに、やはり立ち食いそば屋として、『早い・安い・うまい』をモットーにしているので、そこは変えたくないなと」(山本社長、以下同)

店外に貼り出されているメニュー表
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とはいえ今年は二度の値上げしても、客が減っている様子は全くない。それに、どの時間帯でも行列になってしまっている以上は、値上げをすることでその問題も解消できて、客と店のWin-Winの関係ができそうだが……。しかしここについてもやはり、一由そばとしてのポリシーがあるようだ。

「確かに値上げをすることで、いろいろと解決できる問題はあるかもしれませんね。しかし、こう言ったらきれいごとに思われるかもしれませんが、値上げで解消できるものもあれば、失うものもあるのだと思います。正直言ったら、“安くて、うまくて、そしてみんなが潤う……”というのはほとんど不可能に近いじゃないですか。それでも、ギリギリのところでバランスを取り続けていきたいと思ってしまうんです」

立ち食いそば業界の未来はどうなるのだろうか。

コロナ禍、そして物価の上昇、日本一の立ち食いそば屋・一由そばは苦難の中でどのように経営を続けてきたのか。後編へ続く。

取材・文・撮影/ライター神山