値上げと「500円の壁」で板挟みの立ち食いそば
「実は、こないだ値上げしたばかりなんだよ。心苦しいけど、安いままじゃ朝から晩まで働いてもやっていけないからね。でも、うちはお客さんのほうから『値上げしなきゃダメだよ!』なんて言ってくれた。
ただ、ラーメン業界に『1000円の壁』があるように、立ち食いそばには『500円の壁』っていうのがあってね。500円を超えると、やっぱり高いと思われちゃうんだよ。でも、今は何でも値上がりしているから、500円じゃ正直厳しい。
昔、マクドナルドのハンバーガーが59円だった時期があったけど、あれはやりすぎだったと思うよ。ああいうのが原因で、みんな安いのに慣れちゃったんだ。
結局、経営のために値上げしたくても、お客さんの給料が上がらないとね。生活が苦しいとき、真っ先に節約されるのは食費だから。うちみたいな外食産業なんて、最初に影響を受けるよ」(都内下町のそば店)
一方、人手不足に関しては、もともと立ち食いそば店であることが助けになっているという。
「もともと立ち食いそばだから、人手がかかるシステムではないんだよね。店も広くないし、オペレーション的には1~2分で1人前ができるから、人手不足の影響は少ないんだ。うちは出前もやってないし。
Uber Eatsが一度営業に来たことがあったけど、配達の間に麺がのびて味が悪くなったら困るでしょ。自分で運ぶなら責任が持てるけど、知らない配送員のせいで店の評判が下がるのは困るから断ったんだよね。
うちは母親と兄貴と一緒に店を始めたんだ。息子はいるけど、こんなキツい仕事を継がせるつもりはないから、息子は会社で働いているよ(笑)。だから、後継者不足って言えばそうなんだけど、もともと俺の代で閉店するつもりでやっている。ただ、もし誰か『やりたい』っていう物好きがいれば、譲るのを考えないでもないかな(笑)」 (都内下町のそば店)
総務省や厚生労働省の調査では「そば・うどん店」として統合されているため、そば店単独の家計支出や廃業動向を具体的に把握することは難しい。
一方で、今回取材した各店舗が切実な現状を訴えているのもまた事実だ。“おせち離れ”など年末年始の食文化が変化しつつあるなか、“年越しそば”という伝統は未来の世代まで守られるのだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班