二極化が進むそば業界

昨今の飲食業界といえば、訪日外国人(インバウンド)の増加により、和食を中心に好調な状況が伝えられている。寿司と並んで“ジャパニーズフード”の代表格とされるそばも人気を集めているように思えるが、茨さんによると、町のそば店への影響は意外にも限定的だという。

そば店にとって、年末は一年でもっとも大きな稼ぎどきだ(撮影/集英社オンライン)
そば店にとって、年末は一年でもっとも大きな稼ぎどきだ(撮影/集英社オンライン)

「高級そば店や和食レストランと違って、うちのような町のそば屋は、外国人に知ってもらう機会がほとんどありません。だから、インバウンドの恩恵はあまりないんです。
最近ではインバウンド向けに値上げをする店舗も増えていると聞きますが、うちは町の人のために、なんとか価格を抑えながら商売を続けている状況です。

今後のそば業界は、インバウンド需要で賑わう高級店や観光地の店と、うちのような地域密着型の町のそば屋で、二極化が進んでいくんじゃないかな」(茨さん)

「丸花」の看板メニューだという「しぐれ」。鶏肉や揚げ餅など豊富な具材を使用していながら、値段は950円(撮影/集英社オンライン)
「丸花」の看板メニューだという「しぐれ」。鶏肉や揚げ餅など豊富な具材を使用していながら、値段は950円(撮影/集英社オンライン)

その後も、筆者は町のそば店で話を聞き込んでいった。このエリアは下町らしく多くのそば店が軒を連ねているが、どの店も共通して語るのは、物価高への苦悩だった。 

「うちは自分で出前もやっているし、フードデリバリーでも注文できます。大晦日は一番の稼ぎどきで、昼間から出前予約の電話がバンバン来て、『◯時に◯◯さん宅、×時に××さん宅』とリストを作っています。でも、ガソリン代も上がっているし、ほとんど地元の人へのサービスみたいなものですね」(家族経営の下町のそば店) 

取材に応じてくれた下町のそば店(撮影/集英社オンライン)
取材に応じてくれた下町のそば店(撮影/集英社オンライン)

「正直、値段を上げたい気持ちはあります。でも、上げすぎるとお客さんが来なくなっちゃうんですよね。時給で従業員を雇っている店だと、人件費も原材料費も上がっているから、大幅に値上げしているところも多いんじゃないかな。

でも、うちは個人経営だから、人件費は自分が働けばいいだけ。だから、何とか大きな値上げをせずにやりくりしています。
実際、他所では天ざるなんかが2000円を超えることもありますが、うちは何とか抑えて提供していますよ」(老夫婦で営む下町のそば店)

次に、カウンターとテーブル席を備えながら、「もともとは立ち食いそばだった」という店を訪れた。その歴史もあってか「物価高の影響は、他のそば店よりも大きい」と店主は嘆く。