「あと1人保育士がいれば」
今年11月20日、神奈川県厚木市でパワハラ被害と労働環境の改善を訴え、6名の保育士がストライキを決行した。5年間で(園長4名を含む)29名もの保育士が離職するも、放置してきた運営元の対応に疑問を投げかけたのである。
こうした保育士の大量離職は、全国的に起きている。限られた職員で、子どもの命を預かる現場はすでに極限の状態だ。
「人手が多ければ助かったのでは……とニュースで子どもたちの不慮の事故を見るたびに悲しくなります」と話すのは、関東の民間保育園に15年勤めてきた保育士のサオリさんだ。
「正直、仕事中に『あと1人保育士がいれば』と思った場面はたくさんあります。加配(通常より多く人を配置すること)が必要だと感じる子もいますが、人手不足で手が回っていません。その余裕のなさが職場の人間関係の悪化、さらには激しい叱責や遊びの不足などの不適切保育へつながっていると感じます。早急に、3歳以降の幼児1クラスにつき2名の保育士を配置してほしいです。
また、休日には自宅へ仕事を持ち帰ることも多く、有休も満足にとれない。各保育園に1人ずつフリーの保育士を配置し、有給休暇をとりやすい体制にすることも必要なのでは」(サオリさん)
配置基準については、今年見直しがなされた。3歳児は従来の20人に1人から、15人に1人保育士を配置するように法律が改められた。また、4、5歳児に対しては30人に1人ではなく、25人に1人保育士がつくよう定められた。
だが、実現するには時間を要しそうだ。
「この15対1、25対1の数字は、あくまで経過措置が可能な改定です。つまり『自治体によっては、集まらなければ前の基準で行なってもいいよ』というもの。私の自治体では、4、5歳児は2030年までに、3歳児は2032年までに配置基準改善を目標にすることを保育課に伝えてきましたが、市長が代わればどうなるかはわかりません。
さらに、私が、以前から早急に見直すべき配置基準として挙げているのは、0歳児3人に対し、保育士1人というもの。その体制では災害時に全ての子どもを避難させることができません。0歳児は、2人に対して保育士1人を配置し、災害時には全員を救出できるようにしたい。切に願います」(前出・コムムさん)
人件費10.7%の引き上げ。一見するとありがたいことのように思える。
しかし、こうした人件費は現場の保育士の手には満足に行き渡ってこなかったのが現実だ。まずは現場の声に耳を傾け、保育業界を抜本的に改善する策をあらためて講じるべきではなかろうか。
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取材・文/山田千穂 集英社オンライン編集部ニュース班