英雄たちによる「ストゥを使った恐ろしい決闘法」
つけ加えると、ストゥはユカㇻ「英雄叙事詩」の中にもよく登場します。
主人公と敵がこれで1対1の決闘をするのですが、やり方が少し違って、片方が立木に向いて立ち、背中を相手に向けます。相手が背後からストゥで打ちかかるのですが、主人公のポイヤウンペはストゥが当たる瞬間にするりとかわして、相手は立木をしたたかに打ちます。
攻守交代して今度はポイヤウンペが相手の背中を打つと、相手はもろにくらって、しおれた草のようにぐにゃりと倒れてしまうということで、一撃必殺、当たったら一巻の終わりという恐ろしい決闘法です。
「ゴールデンカムイ」で、このストゥはその後も要所要所で活躍しますが、26巻254話ではアシㇼパがこれでジャック・ザ・リッパーに一撃をくらわしています。
ということは、アシㇼパは普段からずっとこれを持ち歩いていたということになりますね? 「乱用は許されない」はずなのですが。
キサラリ「耳長お化け」の使い方
2巻14話ではキサラリ「耳長お化け」というものが登場します。萱野茂(かやのしげる)さんの『アイヌの民具』で紹介されており、漫画でもそれを元にしてはいますが、使い方はだいぶアレンジされています。
漫画にもあるとおり、これは子供をおどかして泣き止ませるための道具で、アシㇼパは「窓の外からチラチラ出しながらこの世のものとは思えない声を出して子供を驚かす」と説明しています。
そして、杉元にためしにやらせてみますが、情けない声しか出せないので、子供たちはみんなしらっとした顔で見ています。そこで、アシㇼパが手本を見せて「ゔぇろろろろごうろろろあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッ! !」という声を出すと、子供たちが叫び声を上げてこわがるという展開です。
しかし、この元ネタである『アイヌの民具』を見ると、「歯をかみしめ、唇を引きかげんにして強く息を出し、ぐふーう、ぐふーうと、けものか鳥かわからないような音を出す」(256頁)と書かれていて、アシㇼパの上げている声とはだいぶ違う趣きです。
私は、アニメのこの部分のアフレコに立ち会った際に、監督から「実際にはどんな声を出すのか」と訊かれたのですが、やっているところを見たことも聞いたこともないし、おそらく漫画で描いてあるような声の出し方ではないだろうなと思っていたものですから、おおいに困りました。
あのシーンはほとんどアシㇼパ役の白石晴香さんのアドリブです。