過去イチ〝ウケなかった〟のに決勝に行けた
M-1の客層は年によって違います。準決勝までの客層と決勝の客層が、「コアなお笑いファン」と「一般的なお笑い好き」とにハッキリと分かれている年もあれば、それほど分かれていない年もあります。
ここ数年は、それほど準決勝と決勝で客層に差はないように見えます。
ただ傾向として、今までは客層が分かれていたことは事実なので、寄席でウケすぎると不安になると言っている子たちもいます。「まずい、これではコアなお笑いファンが見ている準決で勝ち残れない」という危機感が生まれるんでしょう。
でも、たとえ準決勝でコアなお笑いファンを納得させて勝ち残っても、最終的に決勝でウケなければ頂点には立てません。
決勝に行くには、コアなお笑いファンを納得させなくちゃいけない。でもそれだけでは不十分で、決勝で勝ち切ることを考えれば、絶対に寄席でもウケていなくちゃいけない。変わったことをやって決勝まで上がっても、引き続き変わったことをやって決勝で勝ち切れるかというと、また違う。そこが、すごく難しいところです。
NON STYLEは、もともとスタンダードな漫才をやっていたところから「イキリ漫才」を確立しました。そして2007年、忘れもしないM-1敗者復活戦で敗退してから、さらにイキリ漫才を脱して新しいスタイルを構築しました。
例の「一度ボケた後、太ももを叩いて戒める」スタイルですが、劇場での反応は「なんか変わったことやってんな」という感じでした。
僕らにとっては、それは今までになかった前向きの反応でした。以前、僕らが感じていた手応えといえば「ウケること」だけでしたが、それ以外の手応えもあるねんなと、ポジティブに受け止めたんです。
そして臨んだ2008年のM-1準決勝。すべてが奏功して過去イチウケた、だから決勝に行けたんやと豪語したいところですが、そうではありませんでした。
むしろ今までの準決勝の中で、この年が一番ウケなかった。2007年のほうが断然ウケていたと思います。ただ、表面的に爪痕を残すのではなく、深いところまでえぐることができたという感触を得られたのは、やっぱり2008年でした。
写真/AC