医療のエビデンスは「臨床研究」の結果から得られる
エビデンスとは、「証拠・根拠・証言」という意味です。医学分野に限った専門用語ではなく、現在ではさまざまな分野で情報に対して求められています。とくに科学の分野では重視されていて、エビデンスとは「医学的根拠」や「科学的根拠」を表すことばとして使われます。
医学の場合、たとえば、「喫煙している人は喫煙していない人と比べて、肺がんになるリスクが何倍になるのか」とか、「うつ病の患者さんが抗うつ薬を服用することで、何人中何人がよくなるのか」など、特定の病気や症状に有効な治療法を報告するときに、ヒトを対象とした「臨床研究」の結果を示します。
その研究結果からエビデンスが得られ、医療者の間では、「患者さんにエビデンスを示して治療法を説明する」などと表現されます。実際に、臨床研究は医学的なエビデンスを構築する作業となります。
「エビデンスレベル1〜6」のそれぞれの基準
次に、エビデンスレベルの基準について、具体的に見ていきましょう。
治療の有効性に関するエビデンスは、「信頼性がもっとも高いレベル1」から、「信頼性がもっとも低いレベル6」まであります。レベルが低い順から、研究デザインの種類を示して説明します。
〈エビデンスレベル6〉
実際に検証されたデータに基づいているかどうかわからない「専門家の意見」。
たとえば、医学専門誌やテレビ番組などで医師や専門家が、「わたしの長年の経験で実感しているのですが、○○の症状には、△△の治療法が有効です」と発言したとしましょう。この場合、発言者が医師であっても「個人の経験・見解」であり、その治療法にどの程度の医学的根拠があるのかはわかりません。そのため、信頼度はもっとも低いレベル6に分類されます。
〈エビデンスレベル5〉
珍しい疾患や新しい治療法で効果があった場合に、医学論文や医学会で発表される「△△の薬によって○○の症状に改善がみられた」という「症例報告」。
症例報告とは、実際に患者さんに対してある治療を行ったことでどうなったかの経過報告であり、専門家たちが共有し、さらなる研究を進めるうえで重要な情報となります。
ただし症例報告は、その人にはその治療法が有効であったとしても、「もしその治療を行わなかった際にはどうなっていたのか」といった、研究にとってもっとも重要な、「治療をした場合としなかった場合の結果の比較」ができていない段階です。
その治療を行っていなくても、自然に回復していたかもしれず、また、その治療をしなかったほうが早く改善していたかもしれません。そのため、症例報告はレベル5に分類されます。