うつ病の再発率が60%といわれる根拠は?

実際に一般の方から問い合わせがあった、うつ病の再発に関しての「不十分、不正確な医療情報による数値の誤解」について説明した事例を紹介します。この一般の方をAさんと呼びます。Aさんとはリモートで直接お話をし、メールでのやりとりもくり返して本記事に記すことの承諾を得ています。

Aさんは、関西医科大学・精神神経科教授の加藤正樹医師を中心にわたしも共著者となった英語論文を読まれて、メールで問い合わせてこられました。論文の邦題は「うつ病における抗うつ薬による寛解後の抗うつ薬の中止:システマティックレビューとメタ解析(*1・2)」です。その内容は、症状が改善したうつ病の人に、抗うつ薬をいつまで続ければいいのか。継続する場合と中止する場合で再発率はどれぐらい違うのかを比較したものです。

Aさんのパートナーは激務の末にうつ病を発症されました。通院して治療を始めたところ、幸い、1年弱の薬物療法と休職により、復職できる状態にまで回復したということでした。

ただ、再発を心配されたAさんがネットなどでさまざまな情報を調べてみると、「どの情報にも、『うつ病は再発率が60%と高いため、維持治療が重要』とありました。60%の再発は避けられないのかと、大きな不安を感じるに至りました」ということ、また、「保健所の相談窓口に問い合わせても、維持治療の効果を説明するデータを持っていないとの回答で、クリニック・病院に尋ねることを勧められました」とのことでした。

そこで、「わらにもすがる思いで英文の医学論文まで調べるうちに、(前述のわたしたちが著した)論文にたどりつきました」と言われます。

うつ病の再発率が60%といわれる根拠は? 「この薬で死亡率が3倍」といったセンセーショナルな表現や情報は誤りである可能性が高い理由_1
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その数値は知りたいことを正確に表しているか

Aさんは、この論文を読んで、

「適正な維持治療により、再燃・再発率を20%まで抑え込むことができること、また、寛解から6カ月間が維持治療のもっとも重要な時期であることも理解ができて、前向きな気持ちになりました」と話します。

そして、その論文は権威あるジャーナルに掲載されていたこと、執筆者が日本人だということに驚き、わざわざ感謝のメールを加藤医師に送ってこられたのです。正確な情報を求めて英語論文を検索し、執筆者に問い合わせをされたAさんの真剣なお気持ちに敬意を表します。

このAさんとのやりとりの中で、一般の方がネットなどで医療情報に接するときに抱く疑問について、重要なポイントがいくつかあると痛感しました。

ネットで「うつ病」「再発率」と検索すると、実際に現在、厚生労働省(以下、厚労省)の公式サイトをはじめとして、さまざまな医療情報サイトで60%という数値がヒットします。

そのように具体的な数値を複数の情報で示されると、それがすべてであるようにとらえられがちです。その数値によっては、Aさんのように、せっかく治療をして回復したのに60%もの人が再発するのか……と目の前が真っ暗になることもあるでしょう。

実のところわれわれの研究では、前述のとおり、適切な維持治療により「うつ病の再発率」を6カ月間で20%にまで抑えることができるという結果になったのです。

医療情報に限りませんが、数値を解釈するうえで注意すべきポイントが3つあります。次にひとつずつ考えましょう。