資産整理の期限は10カ月しかない
2011年に起きた東日本大震災の直後に父は他界し、同時にそこから10カ月にわたって続く相続地獄が幕を開けた。
遺産分割協議や相続税の申告は、故人の死亡届けを提出してから10カ月以内に完了しなければいけないと法律で定められている。
1年近くも猶予があるのかと思ってしまいがちだが、10カ月はあっという間に過ぎていく。なにしろ、膨大な手続きが必要なうえに、一つひとつに信じられないほど時間がかかる。
しかも並行して行うことができず、一つクリアしたら、それを持って役所へいって手続きを進めるという具合で牛歩も甚だしいのだ。
ただ私は当初から期限を強く意識していた。
申告期間の10カ月を超過すると、脱税で立件されるケースがある。経済アナリストという肩書で仕事をしている立場上、脱税で捕まるなどという失態は許されない。そんなことになればお金のスペシャリストとして呼ばれるテレビやラジオの出演や講演、経済学部の教員の仕事は奪われてしまうかもしれない。私はあせっていた。
ちなみに私は節税しようとは、はなから考えていなかった。親から相続するお金は、いわばあぶく銭だと考えていたからだ。
余談になるが、結果的に私は父から相続した資産を弟と折半した。
父の介護にかかった金は差し引いたうえでの折半を求めることもできたが、あえてそうはしなかった。
領収書をとっていなかったので、証拠がないし、天から降って来たようなお金に執着して骨肉の争いと化した挙句、ストレスを募らせるようなことになるのは不毛だと考えたのだ。
祖母の介護を巡り姉妹の関係性が崩れたことに心を痛めていた母が、身をもって伝えてくれた教訓だったのかもしれない。