「パレスチナ人を動物のように扱い、辱める姿を私は何度も目撃した」
——ムハンマドさんはイスラエルの市民権(国籍)を持ったパレスチナ人という立場とのことですが、それはたとえば難民キャンプに暮らすパレスチナの人たちとどのような違いがあるのでしょうか。
モハマド 私の祖父が、1948年のイスラエル建国時にイスラエルに残ることを選んだので、私にはイスラエルの国籍があり、パスポートも持てます。だから今ここ、日本に来られるのです。パレスチナ人の中では特権的な立場です。しかしそうでないパレスチナ人にはまず移動の自由がありません。
現在、ヨルダン川西岸地区には300人の、ガザには200万人のパレスチナ人が住んでいますが、70年以上も占領されてきたガザにも、ヨルダン川西岸にも高さ15メートルの壁があり、各都市の間のあちこちに検問所があり、兵士が立っています。
エルサレムでも、通りのあらゆる角に軍隊がいるのが見え、パレスチナ人の住居のある場所にはイスラエルの旗を掲げた入植者がどんどん入り込んできて住民を追い出します。政府がそれを奨励し許可を出しているからです。彼らがパレスチナ人を動物のように扱い、辱める姿を私は何度も目撃しました。
一方で私も含むパレスチナ系住民は、新しく建物を建てたり、拡張したりすることは許可されていません。教育や行政の予算も不平等です。イスラエル国籍を持っているパレスチナ人も、書類上はイスラエル人と同じ権利を持っているかのように見えますが、実際にはそうではありません。移動はできても、道を通るだけで検問所で尋問され、職務質問を受ける。
働き口を探すのにも差別を受ける。パレスチナの問題を話したり、ガザの惨状に対して声をあげるだけでも逮捕されます。イスラエルの中でパレスチナ人であることは、常に自分が「イスラエルの敵ではない」と証明し続けなければならないということです。
——この状況にイスラエル社会は矛盾や戸惑いを感じないのでしょうか。
デヴィッド イスラエルのメディアは現実を伝えません。イスラエルの兵士がどのように死んだかを報道しますが、ガザで起きていることも、西岸地域で起きていることも伝えません。政府も、メディアも、人々がそれを見ないまま、憎しみを持ち続けることを望んでいるのです。
また、私たちは幼いころから、自分たちは選ばれた民であり、この土地は神からもらったものだと教えられ、アラブ人は常に危険で恐ろしい存在なのだと教えられて育ちます。政府はその恐怖につけ込むのです。支配をするために都合がいいからです。イスラエルのほとんどの人が、この戦争を肯定しています。
人質解放のために戦争を停止せよと主張する人たちはいますが、ガザに対する攻撃をやめよ、ジェノサイドをやめよ、という人たちはいません。残念ながら私たちのような人間は、イスラエルではマイノリティの中のマイノリティの中のマイノリティです。
モハマド ホロコースト体験の歴史を持つイスラエル社会は自分たちが被害者であるという文化が浸透しています。被害者であると同時に神に選ばれた人種であるという考え方が共存しているのです。
イスラエルは自分たちの国は中東唯一の民主国家であると謳っていますが、同じ土地に住む別の民族には言論の自由も移動の自由も与えていません。それが民主主義の国家と言えるでしょうか。