目が見えているからこその死角がある

文字の読み間違いだけではありません。

心理学の本にもよく載っている、ワイングラスにも向かい合う2つの顔にも見える絵、おばあさんの顔にもそっぽを向いた若い女性にも見える絵をご存じの方も多いでしょう。

そんなだまし絵じゃなくても、例えばスポーツカーの助手席で女性がハンバーガーをかじっている日常のスナップ写真があったとします。

「ここではきものをぬいでください」どう読む? 目の見えない精神科医が「見えていても見えないことがある」と説く理由_3

車に興味がある人は車種に注目するでしょうし、女性に興味のある人は彼女の容姿に注目、お腹が空いている人はハンバーガーに注目します。そして自分の注目しなかったことについては後から質問されてもあまり憶えていません。

つまり「視界には入っていても見ていなかった」というわけです。このように、視覚というのは実に心の影響を受けやすい感覚。

視力が良い、悪いにかかわらず、「何に注目しているか」によって見えるものが全然違ってしまうのです。

視覚という感覚には無意識の「額縁」がついてしまうわけですね。

人は視界の中から「見たいものだけ」を額縁に入れて、心の壁に飾ります。額縁に入らなかった景色は、そこにあるのに見えていません。

あなたは見ていますか? 視界に入れているだけでちゃんと見ていないことはありませんか?

「うちの夫は、床にゴミが落ちているのに、全然拾ってくれない!」そう嘆いているのは本書の編集者の奥様ですが、それも致し方なし。

確かにゴミは落ちているのでしょうが、彼の額縁には全く入っていないのです。見えていないから拾うはずもない。その分、彼のファインダーはいつも奥様にフォーカスしている……かどうかは直接ご本人にご確認ください。

目が見えている人には見えているからこその死角があります。

しかし、その死角はなかなか自覚できません。それは決して鈍感だからではなく、そもそも見えていないものを「自分にはそれが見えていないんだ」と気づくはずはないのですから。

だからこそ、「見えているのだから、なんでもかんでも見えている。分かっている」と過信しないよう心がけましょう。視覚に障がいはなくても、自分には見えていないこともあると思っていたほうが、大切なものを見落とさずに済みます。

写真/shutterstock

目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと
福場翔太
目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと
2024年10月10日
1540円(税込)
ISBN: 978-4763141736
何が大切か、見えなくなったあなたへ。 「目の見えない精神科医」が贈る、希望へのガイドブック。 この本の著者は、北海道美唄市にて精神科医として従事される福場将太さん。NHK北海道に「目の見えない精神科医」として出演され、話題となりました。 医学部5年生の時に、徐々に視野が狭まる病を患っていることが発覚。そしてとうとう32歳で完全に視力を失いました。
それでも福場将太さんは、10年以上に渡り、患者さんの心の病と向き合ってこられました。 目が見えるからこそ、見えるもの。 目が見えるからこそ、見えないもの。 目が見えないからこそ、見えないもの。 目が見えないからこそ、見えるもの。 そんな4つの世界を、「見えていた頃の生活」と、「見えなくなってからの生活」を行き来しながら書かれたのが本書です。
「視覚障がい者の視界は、意外にもカラフルです。 真っ暗な世界なんて、とんでもない!」 「人間は全てを手に入れられない分、全てを失くすこともできないのです」 「私にとって目が見えている人は、もはや超能力者なのです。 だって私にとっては不可能に近いことも、一瞬で成し得てしまうのですから」 「人生は一本道じゃない。行けるところまで行ってみて、ダメになったらダメになったで、また別の道を探せばいい」 ……など、福場さんだからこそ語ることのできる、明日を明るく照らす希望の言葉が満載です。 もしもあなたが目の見えている人なら、大切なものを見つめ直すガイドブックとして。そして、もしも目の見えていない人なら、頼りたい視覚がなくても希望を見つけられるガイドブックとして、手に取っていただけることを願って。
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