主題歌はフィリピンで「第二の国歌」とも
「ボルテスV(ファイブ)レガシー」というフィリピン映画が公開された。5台のメカが合体して巨大ロボットとなり、地球侵略を目論む異星人と戦うSF物語。
フィリピン映画を、しかも全国規模のロードショーで観る機会はまずないが、今回の上映には、それなりの理由がある。ほぼ半世紀まえに放送された日本のアニメーションが、彼(か)の地で実写化されたものだからだ。
以下、この実写化へ寄せる感慨について書きたいのだが、読み進めていただければ分かる通り、それは「大好きだった作品が、海外で実写化されてうれしい」といった単純な心もちではない。どこか陰影めいたものを帯びた感情といってもいいだろう。
オリジナルは半世紀近くまえのテレビ番組であり、すでにある程度知られてもいるから、ストーリーの根幹に触れる場合があることをお断りしておく。
原作アニメ「超電磁マシーン ボルテスV」(1977~78)が放映されたのは、私が小学2年生のときである。
人気作「超電磁ロボ コン・バトラーV(ブイ)」の後を受けて企画された。5台のメカが合体して巨大ロボットになるというアイディアはコン・バトラーVが元祖で、番組はヒットし、おもちゃも売れに売れて一大ブームとなる。私も夢中になったひとりだった。
つづいてスタートしたのがボルテスVだったが、テレビ雑誌などで先に情報を知った私は、大いに失望した。
5台のメカが合体するというアイディアはそのまま、「超電磁ロボ」から「超電磁マシーン」へ、「V(ブイ)」でなく「V(ファイブ)」、武器は「超電磁ヨーヨー」から「超電磁ゴマ」へと、そうした小手先の技とも感じられる設定の類似が子どもだましと思え、当の子どもだけにいっそう腹立たしかったのである。
当時、ヒット作と設定の似た後番組が作られる例は数多あったから、この時だけというのもふしぎといえばふしぎだが、前作のインパクトがそれだけ強く、また、作品世界が異なるにもかかわらず、ということは大きかっただろう。
私はボルテスVを完全に拒否した。敵ボアザン星人の司令官プリンス・ハイネルが、いわゆる「美形悪役」として絶大な支持を受けたという話を聞いたりはしたが、とうとう一本も見なかったし、それで惜しいと思った覚えもない。
ところが、成人するころになって、ボルテスVがフィリピンで国民的な人気を得ているというニュースを耳にするようになった。
最高視聴率は58パーセント、国民の94パーセントがボルテスVを知っており、主題歌は「第二の国歌」と呼ばれて、これを歌った堀江美都子氏が現地へ招かれた折は、国賓のような待遇で迎えられたという。
かたくなに拒んでいただけに、動揺にも似た思いを抱いた。選(よ)りによって、私が背を向けたボルテスVがなぜ、というわけである。釈然としないものが胸の隅に残りつづけた。