自治体職員の制度に対する理解不足が黒塗りを増やしている

市民の参加による持続可能な市民社会づくりを推進しているNPO法人・まちぽっとの理事を務める伊藤久雄氏は、自治体の情報開示に黒塗りが多い理由として、自治体職員の制度に対する理解不足を挙げる。

「情報公開を直接担当する課の職員は、制度について精通していますが、実際に開示する部分を決めるのは、開示請求の対象となった事業の担当課です。その各部署の職員が制度についての知識が十分でないままに、文書を開示すると、制度の趣旨から外れた不開示が多くなってしまうんだろうと思います。

とりわけ開示可否の判断が難しいのは、裁判のように、こういうケースではこうなるという過去の事例が数多く積み重なって〝判例〞として定着していかないことがあります。

自治体によっては、情報開示請求の件数自体が少ないうえ、開示決定に対して不服を申し立てる審査請求をする例もめずらしかったりしますと、職員が場あたり的に対応するだけで、各組織内に判断基準が蓄積されていかないのが、ひとつの大きな原因になっていると思います」

逆にいえば、担当課の職員の情報公開制度についての理解が深まれば、結果は大きく変わってくるとして、伊藤氏は、2021年に自ら開示請求を行った東京都府中市の市民会館・中央図書館複合施設・ルミエール府中のPFI事業における情報開示の例を挙げる。

ルミエール府中
ルミエール府中
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PFI(Private Finance Initiative)とは、施設の設計・建設から、維持管理・運営までを、特定の専門家集団(コンソーシアム)に一貫して任せる公共事業の新しい手法で、自治体が直接行うより安くて質の高い公共サービスが提供される利点があるとされる。

「2022年9月に15年の満期を迎えるルミエール府中のPFI事業は、2021年4月から2期目を担う事業者の公募がスタートする予定であることから、現事業の検証や導入可能性調査、運営支援業務委託者の選定など、その件にかかわる文書を一括して2020年11月に開示請求しました。

翌月、出てきた約700枚の文書の大半が一部非開示、つまり黒塗りになっていましたので、2021年1月に審査請求を行いましたところ、1カ月後、まだ審査会に諮る前に、市が一部開示決定の変更を通知してきまして、これまで黒塗りだった部分が一部開示となりました」

一部非開示となっても、そこで諦めずに、審査請求をして市の職員と一緒になって情報公開を拓いていくスタンスが必要なのだろう。

黒塗りで開示されたとしても、審査会に不服を申し立てることで、判定が覆ることは決してめずらしくないという。

伊藤氏は、開示結果に対する審査請求は、自治体の違法・不適切な支出に対して申し立てる住民監査請求よりもハードルが低く、市民に有利な結果が出やすいと指摘する。

「住民監査請求を審査する監査委員は、その半数は議員がなり、残り半数も役所のOBがなることが多いため、なかなか市長に不利な結論は出にくいのが実情です。その点、情報公開の審査請求のほうは、請求の内容を審議する審査会の委員は、弁護士などの有識者が何人か入っていますので、市長に忖度しておかしな結論が出るようなことはなく、わりと制度の趣旨に沿った結論が出やすい傾向があります」

ただし、和歌山市では、この審査請求ができるのは、市内在住・在勤者などに限定されている。そのため、筆者のケース(※2018年4月に筆者が行った「来年開業予定の市民図書館について、南海電鉄と話し合ったすべての文書」との開示申出)では、その〝本番〞にたどりつく門前でブロックされていて、それ以上は、どうあがいても前に進めなくなっていた。

市外在住者からの〝開示申出〞は受け付けるものの、それはあくまでも、条例に定めのない任意的な行為だ。そのため恩恵的な開示には応じるけれども、もし開示内容に不服があったとしても、審査請求はできないという建付けになっているわけだ。

つまり、和歌山市における筆者の開示申出は、担当した市の職員にとっては、最初から、審査請求によって不服を申し立ててくるリスクがまったくなかったことになる。

どれだけ黒塗りしても、あとからその判定が覆る可能性はゼロ。そのため、担当者は、思う存分、文書を黒塗りにできたのではないのかというのは、私の邪推にすぎないのだろうか。