首相会見に台本はあるのか?
臨時国会が閉会した12月13日に行われた内閣総理大臣記者会見(以下、首相会見)。注目を集める政治資金パーティーをめぐる裏金問題に質問が集中する中、岸田文雄首相は「まずは事実確認」「説明責任を果たす」など曖昧な回答に終始した。
また、従来通り手元の原稿を読むだけで回答を済ませるという場面も散見された。こうした首相会見の形骸化が国民の「知る権利」を侵害し、裏金問題を始めとする政治腐敗は悪化の一途を辿っている。本記事では、首相会見における質問の事前提出、いわゆる台本の存在について取り上げる。
同会見で岸田首相は前任者(菅義偉氏、安倍晋三氏)と同様、回答時に事前に用意した原稿を読み上げる場面が目立つ。これは質問が事前提出されていないと不可能に近い。首相会見の中継を観たことがある国民の間では、記者クラブ(内閣記者会)の質問事前提出はもはや公然の事実となっている。筆者のように質問を事前提出していないフリーランスの記者が指名されることはゼロではないが、極めて稀である。現に、昨年8月から継続的に同会見に参加する筆者が計8回の参加で指名されたのは、昨年10月のわずか1回のみだった。
筆者はこうした状況を改善するため、いわゆる「台本」の存在を浮き彫りにできないかと考え、今年7月に以下2点を内閣官房に開示請求した。
(1)会見開始前に記者が内閣広報室に提出した質問内容
(2)(1)に関連する記者と内閣広報室のやり取り
狙いとしては、「事前提出された質問内容」を入手できれば、その後の「会見での質問内容」との比較が可能になる。ほぼ100%一致することを証明できれば、少なくとも質問に関しては事実上の「台本」の存在を証明できると考えたのだ。
ところが、官邸報道室はこの開示請求を「不存在」を理由に不開示を決定した。筆者は80件超の開示請求の経験があり、さまざまな不開示理由を見てきたが、ここまで明らかに「存在」すると判断せざるを得ない内容を「不存在」と主張する決定はめったにないため、驚愕した。
事前提出された質問を官邸が公式な文書として扱っているかは疑問が残るため、「廃棄済み」(=以前は存在したが、今は存在しない)や「守秘義務」(=今も存在するが、内容は明かせない)を理由にした不開示決定を筆者は覚悟していた。しかし、「不存在」(=始めから存在しない)は、完全な想定外だった。昨今の予定調和な会見進行を知っていれば、不開示理由を虚偽と判断せざるを得ない。
この不開示決定を報告した筆者ツイートには決定を疑問視する反応がリプライや引用リツイートとして数多く寄せられていた。