逮捕された「リア充っぽい」男の正体
理沙への報告を済ませ、東京行きの新幹線に飛び乗ると、大宮駅を過ぎた昼頃に、車内の電光掲示板で事件の速報が流れた。無言で「逮捕」の2文字を噛み締める泰蔵と、鳴り止まない電話。コメントを求める記者たちからだ。泰蔵はこのとき、初めて逮捕を実感できたという。改めて当時の心境を聞いた。
「あの200日を振り返ると、どう思いますか?」
「僕も改めてその質問を自分に投げかけてみたんですけど、おまえ頑張ったよ、そう過去の自分に言ってやりたいですよね」
「事件を忘れて生きるという選択肢はありませんでしたか?」
「それはなかったですね。ただ、もし同じ状況の人がいたとしても、事件を忘れて違う道を歩む生活はアリだと思うし、否定はできません。誰に頼まれたわけでもなく犯人探しをしていた僕ですが、これ、美談でも何でもない。殺人事件の結末は、決して一つじゃないと思うんです。犯罪被害者の関係者って一括りに見られるかもしれませんが、そのなかで僕は犯人探しをする道を選択した。それはその人の人生だと尊重すること、理解してあげることが残されたものたちに優しい世界なんじゃないかなと思います」
理沙への殺人容疑で逮捕されたのは、かつて彼女の自宅マンション付近に住んでいた男である。戸倉高広、37歳(逮捕当時)。理沙にも、泰蔵にも全く面識がなかった。自宅マンションの引き渡しこそ事件の2日後だったが、引っ越し自体は2ヶ月前の6月に済ませていた。
「むしろリア充っぽい」と泰蔵が言うように、送検写真で容姿を見た私の印象も、殺人犯の容姿を形容してよく言われるような卑劣で陰湿ではない。その見た目からして、見ず知らずの理沙を狙わぬまでも、恋人の1人や2人はいたのではないのだろうか。
事件の迷宮入りが囁かれるなか警察はDNAの任意提出を、過去に理沙の自宅マンション周辺に住んでいた人物にも広げていた。そして、男の引っ越し先である福島県矢吹町の実家まで捜査網を広げDNAサンプルを採取し、逮捕に漕ぎつけたのだ。
ここで、逮捕された戸倉高広という男の足取りを追いたい。
戸倉は6月まで中野新橋に住み、新宿の不動産会社に勤務していた。元同僚によれば「大人しい性格だった」という。仕事を辞めて実家に出戻る理由を聞いたところ、「年下の彼女と結婚するから」と語ったそうだ。
が、矢吹町に戻るも、実際には年下の彼女の存在もなければ、働きもせず母親から小遣いをもらいパチンコに明け暮れていたらしい。
なぜ戸倉は親のスネを齧られるのか。なぜ彼の両親は37歳にもなった息子をサポートし続けるのか。私はその生活ぶりを確認するため、戸倉の実家に飛んだ。