行きずりの犯行?「LINEを交換したかった」

事件前日、彼はマンション引き渡しの手続きを理由に親から現金6万円を受け取り、上京していた。久しぶりに戻ってきた都会で、まず元カノに「会いたい」と連絡するも、相手にされなかった。

会うぐらいはいいのでは。何もそこまで冷たくあしらわなくてもいいのでは。元恋人に会うことが叶わなかった彼は、母親から受け取っていた金で性風俗店に行く。性欲処理を済ませたかどうかはわからないが、その後、当初の目的だった引き渡しの手続きのため中野新橋に降り立った。

深夜、帰宅途中の理沙をどこかで見かけたのだろうか。後をつけ彼女が玄関を開けた瞬間、押し入ったとされている。

「東京での思い出にLINEを交換したかった」

戸倉は裁判でそう語ったが、LINEを交換するだけなら道端で声をかければいいことだ。本当のことを話していないと見るのが自然だろう。ともかく、理沙との接点は近隣住民という以外に全くない。当初疑われていた怨恨や痴情のもつれの類による犯行ではなかったことだけは、確かだ。

(画像)  理沙が暮らし、犯行現場となった東京・中野新橋の自宅マンション
(画像)  理沙が暮らし、犯行現場となった東京・中野新橋の自宅マンション

戸倉は殺害後、彼女の自宅から舞台の衣装やリュック、エアコンのリモコン、シーツなど複数の私物を奪い逃走する。泰蔵が、躍起になってマンションのベランダを中心に捜し回っていたのは、このためだ。

しかし、戸倉は、翌日には引き払うことになっていた自宅マンションのゴミ捨て場に捨てたと供述している。実際に奪ったものは今も見つかっていない。顔見知りの犯行だと思わせたかったのだろうか。

2016年2月、実家に舞い戻り、両親の庇護の下で自堕落な生活を続けていた戸倉に突如として捜査の手が迫る。東京から来た捜査員にDNAのサンプル提出を求められたのだ。意外にも戸倉は素直に応じたという。が、内心は驚いていたことだろう。フェイスブックを削除するなど、迫る捜査に備えて証拠隠滅を図るような動きをしていたことも明らかになっているからだ。

ちなみに逮捕後、警察が戸倉の自宅を家宅捜索するも、事件に関するものは何一つ出てこなかった。