目撃者探しを開始も、届いたのは「誹謗中傷」
事故から2日後。勝美が愛用していたジッポーのライターが現場付近で見つかったとの三島署からの連絡を機に、杏梨(勝美の長女)と勇梨(同長男)は警察に向かい再捜査を促す質問を投げかけた。
「事故現場周辺の防犯カメラは調べるんですか?」
「いまは信号が赤か青かを確認しているだけだから、調べてないよ」
怠慢な回答に添えられたのは、いずれにせよ勝美の過失とする警察の見解だった。
「脇道から来たとしたら、お父さんは信号無視になる。大通りから来ても、原付は二段階右折しなきゃいけないから。今ここでは問わないけど」
話にならない。父が急な右折や信号無視をするはずがはない。絶対に事故相手は嘘をついている。そして警察は自分たちの都合を優先している──。
これまで警察が真実を隠蔽するわけがないと信じ込んでいた家族も、防犯カメラすら確認しない手抜き捜査に愕然とし、翌日からSNSはもちろん現場で手作りのビラを配るなど目撃者探しを開始する。が、寄せられた反応は願っていたものではなかった。杏梨は言う。
「父が右折をしようとしたと報道されてしまったので、自分の父親の過失で事故が起きたのに、いちゃもんをつけているように見られました。事故直後の新聞に住所も出たので、嫌がらせのような手紙が入ってたり、SNSでも『相手のご家族の方から聞きましたけど、あなたたちが言っていることのほうが事実じゃないですよ、不快です』とか。中には『死ね』なんてメッセージもありました」
家族は見ず知らずの社会から向けられる悪意にさらされたために、杏梨の確信は揺らぐ。
「もしかしたら父は、その日に限っていつもと違う帰宅ルートを使い、右折に失敗してしまったのかなとか、急いでいて信号無視をしてしまったのかなって」
心ないメッセージが続き「目撃者を探すことをやめて、そっと父の冥福を祈り生きていこう」という考えが彼女や家族の頭をよぎりはじめた頃、よく脇道で勝美と一緒に信号待ちをしていたという1人の女子大生から連絡が入った。彼女は帰宅を急いでいたある日、国道の信号が黄色になるタイミングでスクーターを発進させようとしたとき、
「危ないよ、停まって。ここは危ないところだからもう少し一緒に待とうよ」と勝美から声をかけられていた。
「だから、絶対に信号無視なんてするはずないですよ」
事故当日の目撃者ではないが、彼女が語る勝美は、家族が知る正義感の強い父そのものだった。そして、家族は確信する。勝美は信号無視も急な右折もしていない。真相を究明すべきだ。