「わたしはね、AIとやっても絶対に負けませんよ」
――対談の中で、しばしば人間とAIとを比較されているのもおもしろかったです。
最近のChatGPTなんか、ホントに衝撃で、使うたびにビックリするんです。ものすごいマニアックな質問をすると、研究者1000人に1人も返ってこないような回答が返ってくる。でも、その先がないんです。
人間はやっぱり、やらかすじゃないですか。どうも不完全だからこそ、新しいことが出きるんじゃないかと思います。
最近では、AIのインフルエンサーとかタレントを作ろうって試みがありますね。スポンサーとしては、人間のタレントに商品宣伝やらせるとどんな不祥事をやらかすか分からないから、その点AIなら安心だと。
でもAIのタレントがいても、ごく一部を除いて、あまり興味持たれないと思う。将棋で言うと、いまだにAIとAIの対局は続けられているけど、誰も見たがらないんです。それと同じことで。
――一方で、藤井聡太さんを、人間とAIの関係を調整する「AIアラインメント」の最先端だと評価なさってますね。
彼も偉大です。いま僕は東大に研究室持ってAIアラインメントの研究をしているんですが、藤井さんはすごく参考になる。
AIがあるならサボっていい、漢字書けなくても、分数の計算できなくてもいいという考え方がありますが、藤井さんがAIを活用して将棋を研究してるように、自分の能力を高める使い方もあるということです。
――あと人間とAIの大きな違いは、身体性の有無ですよね。
ひふみんが現役時代、対局中は昼も夜も、うな重を食べ続けたことに関心があります。
「脳腸相関」といって、脳の働きは腸内細菌の活動とも深く結びついていることがここ5年10年で急速に明らかになってきたんだけど、ひふみんのような天然の人は、食の重要性をわかっていたのかもしれない。AIが電力を消費してやってることを、ひふみんはうな重でやってる。偉大だよね(笑)。
――比喩ではなく、全身で思考しているのですね。
うん、やっぱりそこがAIとの決定的な違いでしょうね。これからどれだけ研究が進んでも、人工小腸を備えて分解、吸収を行うAIは作れない可能性が高い。AIやデジタルは身体性、脳腸相関、そういったとこが抜け落ちてるんですね。そこが我々にとっての希望であり、天然の天才脳が開花するキーポイントかもしれません。
ひふみんがすごいのはね、「茂木さん、わたしはね、AIとやっても絶対に負けませんよ」っていうんです。いや負けるだろうって心の中では思うけど、絶対そんなこといえない(笑)。このすごさを、みなさんにもぜひ味わってもらいたいです。
取材・文/前川仁之 撮影/高木康行