“バラードのチャゲアス”の到達点と、その後

彼らの武器であるボーカルの音量はやや抑えられ、楽器の音はややオフマイク気味に、スタジオの生の残響・部屋鳴りを取り込んだ柔らかな音像が採用されている。

コンプレッサーの処理を抑え、同時代の他のCD作品と比べて音量をあえて絞った、メリハリを強調したサウンドデザインが実に挑戦的だ。

具体的な楽曲を挙げると、極太のベースが牽引するアシッドジャズ的なグルーヴィ・チューン「HANG UP THE PHONE」は、世間一般のスタジアムロック的なCHAGE and ASKAのイメージを覆すであろうクールな1曲。

他に、現地スタッフの強烈なレコメンドで先行リリースが決まったという瀟洒なミディアムR&B「no no darlin’」や、アンビエントとも見紛うほど深い残響のなかで歌われるジャジーなスローバラード「WHY」も白眉だ。

ファンの間でも評価が高い「no no darlin'」
ファンの間でも評価が高い「no no darlin'」

CHAGE and ASKAは、第二のダブルミリオン・シングル「YAH YAH YAH」(1993) 以降も「Sons and Daughters 〜それより僕が伝えたいのは」(1993) や「You are free」(アルバム『RED HILL』(1993) 収録) といったR&B系のナンバーをリリースしているが、徐々に「YAH YAH YAH」の勢いを反映してか、彼ら元来の魅力であるダイナミックでステージ映えする作風に立ち帰っていった。

当時の彼らは「SAY YES」後のパブリックイメージである“バラードのチャゲアス”の払拭に懸命だったとの噂もあるが、もし彼らが『GUYS』の作風を貫いていたら、のちに渡米した久保田利伸や小室哲哉プロデュースの諸作、UA〜宇多田ヒカルら“ディーバ”が築いていった日本のメジャーシーンにおけるR&B史は、少しだけ違ったものになったかもしれない。

とはいえファンにはご存知の通り、彼らはR&Bに留まらない、国内メインストリームを代表していたとは思えないほど“突き抜けた”、ときに摩訶不思議とも呼びたい音楽性を持ち合わせていた。

ここからは、そうした世間一般に浸透している“スタジアムロック”で“パワーバラード”な彼らのイメージとは異なる、メガヒット時代前夜の音楽性に迫っていこう。