「守」のなかにある主体性
アスリート・センタード・コーチングの基本的な考え方は、「スポーツは楽しくやらないと伸びない」です。選手の欠点を批判し、矯正するのではなく、長所を伸ばしていく。課題を与え、自分で考えさせることで、学ぶことの楽しさを実感させる。2023年、夏の甲子園で107年ぶりに優勝した慶應義塾高校の野球部でも、監督がそのような方針で指導していたと聞きます。
そして武道の指導でも、昔から同様のことが行なわれてきたと、私は思っています。
武道修行のプロセスとして、まず先生からいろいろなことを学びます。そしてスポーツには無い武道の特徴として、「引退が無い」ということが挙げられます。つまり、武道では、指導する先生も、現在進行形で技術を学び続けているのです。私が教わっている八段の先生方にも各自の課題があり、それぞれが自分の課題に取り組んでいます。
このような武道特有の学びの関係性を、「師弟同行」と言います。師匠も弟子も、同じ道を歩んでいる。レベルや課題は違えど、先生も学び、生徒も学んでいる。そのような関係性のなかで、師匠から弟子へと技術が伝承されていく。
そして、この同行するふたりを貫いているのが、「求道心」なのです。ひとつの道を、ひたすらに追求していく心です。現代的に言うなら「向上心」が近いでしょうか。「昨日の自分よりよくなりたい」という前向きな心です。
この求道心のなかに、武道の楽しさがあるのです。「守」の段階で教わることの意味や目的は、すぐには理解できなくても、稽古を続けるうちにわかってきます。主体性を持って、自分の課題を見つけていくのです。