「単身の高齢女性 4割貧困」

ただ、とくに男性の場合、ひとりみでいると、寿命が短くなるというデータもあり、無住の生きていた鎌倉時代、「ひとりみ」でいることのいわば「リスク」に注目した僧がいたことは、興味深いものがあります。
 
ちなみに現代日本の女性の場合、「単身の高齢女性 4割貧困」(2024年3月8日付「朝日新聞」朝刊)というデータがあります。貧困問題を研究する阿部彩・東京都立大学教授が、厚生労働省の国民生活基礎調査(2021年分)の個票をもとに独自に集計したところによると、65歳以上の1人暮らしの女性の相対的貧困率が44.1%にのぼることが分かったのです。

高齢期は働いて得る収入が減るかなくなることが多く、単身世帯は他に稼ぎ手や年金の受け手がいなくなることから、貧困に陥りやすいとはいえ、同じ「高齢」「単身」でも男性の貧困率は30.0%で、女性とは14.1%もの開きがある。

これは、男女の賃金格差に由来するもので、とくに年代が進むと拡大するという事情が背景にあります。こうした高齢層の男女格差について、岸田文雄首相は、「70歳以上になると女性の方が単身になる可能性が高い」ことに加え、「女性の賃金は男性より低い傾向にあり、低年金になりやすい」と述べたといいます。

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実際、厚生労働省の2022年の老齢年金受給者実態調査では、「男性は62%が月15万円以上なのに対し、女性は61%が月10万円未満にとどまる」。

阿部氏は、「高齢期を支えるべき年金が家族モデル、もっと言えば男性中心モデルになっている」と言い、モデルは「夫が男性の平均賃金で40年働き、妻はずっと専業主婦」という世帯で、夫婦2人の国民年金と夫の厚生年金を合算している。賃金のジェンダー格差と、旧態依然とした家族観に基づく年金の仕組みが、高齢単身女性の貧困を招いているようなのです。

こうした現状の打開策として、生活保護行政に有識者として関わってきた岩田正美・日本女子大名誉教授は、男女の賃金格差の是正と共に、「年金の『個人モデル』を徹底すべきだ」と指摘しています。

要は、「ひとりみ」が「ひとりみ」のまま、安心して暮らせる体制作りが必要であるということで、そのためにはジェンダー格差の解消に向けた動きと共に、「夫婦」を中心とした家族観の転換が必要であることが分かるのです。

文/大塚ひかり 写真/shutterstock

『ひとりみの日本史』(左右社)
大塚ひかり
『ひとりみの日本史』(左右社)
2024年4月30日
1,980円(税込)
232ページ
ISBN: 978-4865284089

実は独身が大半だった!

結婚は特権階級の営み、日本の歴史は「ひとりみ」の思想に貫かれている——

卑弥呼から古事記の神々、僧尼、源氏物語の登場人物、大奥の女性権力者など、古代から幕末まで、多様なひとりみたちの「生」と「性」を追う。

「独身」や「結婚」、「家族」の概念を覆す、驚きの日本史!


【本書の目次】

はじめに 日本の歴史を貫く「ひとりみ」の思想

第一章 〝独神〞というひとりみの神々がいたーー太古の日本の家族観

第二章 卑弥呼は「ひとりみ」か?ーー即位前は、夫も子もいた古代の女帝

第三章 結婚を制限されていた内親王と、僧尼

第四章 財産が少なすぎても多すぎてもひとりみーー「わらしべ長者」と院政期の八条院

第五章 職業ゆえにひとりみーー大奥の最高権力者「御年寄」

第六章 大奥における将軍は「ひとりみ」に似ている?

第七章 自分の人生を生きたいからひとりみーー結婚が権力の道具だった時代の「結婚拒否」の思想

第八章 家のためにひとりみや結婚を強いられるーー才女・只野真葛(工藤綾子)の「ひとりみ感」

第九章 ケチゆえにひとりみ 「食わず女房」を求めた男

第十章 幕末にはなぜ少子化が進み、ひとりみが増えたのかーー実は「子沢山」を嫌っていた江戸人

第十一章 人気商売ゆえにひとりみ

第十二章 性的マイノリティゆえにひとりみ

第十三章 犯罪とひとりみ

第十四章 後世の偏見でひとりみにさせられた女ーー小町伝説とひとりみ女差別

第十五章 なぜ『源氏物語』の主要人物は少子・子無しなのかーー人間はひとりみを志向する

おわりに 『源氏物語』でいちばん幸せなひとりみ、源典侍

『ひとりみの日本史』索引式年表、参考文献

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