若い世代の安心を生む長い研修期間
いまでは改善されたというが、大和自動車交通も新卒採用者の離職率の多さに悩んでいた時期があるという。若手の採用・研修を担当する採用企画部の中村さんによると、
「私たち50代が新人のころは、すぐに現場に出たいと思っていましたが、退社されたかたへのヒアリングなどを通じて、いまの若い世代にとっては研修期間が長いほうが安心できるのだと、学んできました。二種免許の取得や、接客のためのビジネスマナー、トラブルに遭ったときの対応の仕方など、なるべく丁寧に時間をかけて研修しています」(採用企画部・中村淳さん)
「いまちょうど私と前田が研修担当なのですが、入社2年目の人間が、新人の指導に当たることになっているんです。年齢が近い分だけ、わからないことや疑問に思ったことを聞きやすいし、教える私たちにとっても、教えながらもう一度学びなおせるというメリットを感じています。近い世代と公私を通じて仲良くなれて、すごく楽しいですね」(早乙女陽美さん)
ちなみに地方出身の新人が多い大和自動車交通では、交通量の多い都内を安心して走ることができるよう、研修で徹底的に都内の地理を教えているそうだ。
酔客が吐いた物の処理はつきもの
とはいえ、何もかも楽ということではない。いいことづくめと思えるタクシードライバーにも、大変なことはもちろんある。
「酔って嘔吐されてしまうのはお客様も辛いとはいえ、う〜んという感じです(苦笑)。次のお客様のために除菌シートで清掃していますが、時間のロスにもなりますし。できれば車を停めて近くのトイレなど、あるいはビニール袋などにお願いしたいです」(前田永遠さん)
「事故とかお客さんとのトラブルとかは母が心配するので、位置情報アプリを共有しているんですが、深夜何度も起きて確認していたこともあるみたいで…。それを聞くと申し訳ないなと思いますね。でも“楽ではないけど、楽しい仕事”なので、できる限り頑張ってみたいなと思っています」(早乙女陽美さん)
新卒の離職率が30%を超える現代において、タクシー業界の新卒離職率は20%未満。業界の取り組みが功を奏していると言える。
時代にマッチした働き方、仕事に見合った給与体系、研修によって養われる若い世代同士の繋がり。「現代の若手世代が求める働き方がすべてある」とまでは言い過ぎかもしれないが、昔のイメージとは異なる、魅力ある仕事の一つだというのは間違いなさそうだ。
取材・文/工藤晋
写真/松木宏祐
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