「パワフルな現象を信じて待ちたい」キャリアブレイクの効能とは

「休職・離職することは会社員の場合、これまで指定された居住地や人間関係や会社の当たり前だと思っていた常識から離れ、人生の主導権が自らの手に戻ってきます。主導権が戻ってくることは、ルールが自分だけのものになる。いわゆる創造的孤立ですよね。

自分で考えて行動して決断していかなくてはいけない。それはとても責任が生じることだけど、とてもパワフルな現象だし、人生の転機を過ごすって意味ではとてもいい効能を生み出す」(北野さん)

 厚生労働省が2020年に転職者約5千人を対象に行った調査によると、「離職期間なし」と「1カ月未満」が全体の53・7%で、残り46・3%は最低でも1カ月以上の離職期間を経験している。

キャリアブレイク研究所代表・北野貴大さん(写真/本人提供)
キャリアブレイク研究所代表・北野貴大さん(写真/本人提供)
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とはいえ、これまで築いてきたキャリアを中断し、休職離職を決断するのは勇気もいるし、リスクもあるのは確かだ。

人事に詳しい専門家によると、近年は都市部やベンチャー企業などを中心に、キャリアの空白を悪と捉える価値観は薄らいでいるとはいえ、かつてのように「働いていない期間=欠陥がある」「空白期間があるのは辞める前に次の道を決めていない見通しが甘い人材」という見方をする企業もあり、選べるなら空白期間がない人を選ぶ傾向もある。

キャリアブレイクを選ぶ人の中には自ら望んで選択する人もいれば、職場の人間関係や激務などのストレスにより図らずしもキャリアブレイクに入る人たちも多い。そんな現状を踏まえつつも、北野さんは笑顔でいう。

 「頑張ってきた人がキャリアを中断することは罪悪感や葛藤は必ず発生するし、離職休職の入口はだいたい苦境ですよ。だけど、受け入れられない事態や罪悪感を自分の中で供養して、『せっかくだしいい転機にしよう』とエネルギーに変えていく瞬間があります。

このパワフルな現象を信じて待つことは社会にとってもメリットが大きい。そういう社会に変わっても面白いんじゃないかな」

働き方改革やコロナ禍を経た働き方の多様化は、若者を中心に大きく社会を変えた。一歩進めて、「キャリアブレイク」という考え方が社会に定着する日が近いかもしれない。

取材・文/集英社オンライン編集部