重症食物アレルギーの場合
薬剤アレルギーと同様に、「あれもダメ、これもダメ、もう食べられる食材がない!」といった食物アレルギーの患者さんはごく稀です。食物アレルギーもアレルゲンとなる食材と抗体・免疫細胞との反応であるため、食べられない食材同士は化学的にも似たタンパク質を持っているからです。
反応する食材が比較的多岐にわたる食物アレルギーに、「花粉食物アレルギー症候群」があります。これは、スギだけでなく1年を通してさまざまな花粉にアレルギー反応が成り立つ(感作される)ことで、さまざまな果物や野菜に反応して、口がかゆい、唇が腫れるといった症状があらわれます。
この疾患も、植物である花粉と、植物である果物や野菜が似通ったタンパク質を持っているから反応してしまうというメカニズムであり、化学的な構造も似通っている部分があります。
「野菜もダメ、魚も肉もダメ、パンも牛乳もダメ」といったように、共通点のないもので症状が出る患者さんがいたら、その人は重症食物アレルギーではなく、まずは化学物質過敏症を疑います。
外的な要因に体が反応した時、「アレルギーの呪縛」のような思い込み(バイアス)から抜け出せずにいる多くの患者さんや医療従事者がいます。
医療従事者でさえ、「これは、一般的なアレルギーじゃないよな……。でも、いったい何の疾患なのか?」と悩む日々を過ごすこともあります。
化学物質過敏症なのに重症アレルギーと診断されてしまい、それによって適切な治療が受けられず、何年も苦しむことになった患者さんにも出会ってきました。世の中には多くの難病があり、稀な疾患であるほど初期の段階ではすぐに確定診断がつかない場合があります。
誤診に限らず、「診断遅延(diagnosis delay)」を可能な限りなくすのが、すべての病に対する理想です。患者さんの苦しい日々をより長くしてしまうのみならず、間違ってつい病名のもとで「過剰治療(over treatments)」に進んでしまい、そのことで有害事象(副作用や副反応)に悩む患者さんがさらに増えてしまう危険性も生じてしまいます。
*1 谷口正実「NSAIDs 不耐症/アスピリン喘息(AERD)における病態解明の進歩と臨床的側面」『医療』第74巻第10号(428-436)、一般社団法人国立医療学会、2020年
図/書籍『化学物質過敏症とは何か』より
写真/Shutterstock