死刑の実態をまず明らかにする

日本では09年から裁判員制度が始まり、死刑が言い渡される事件の裁判員に誰もがなる可能性が出てきました。一般の国民が死刑判決に関与させられるわけですから、政府は死刑の実情をオープンにするべきですし、それをしないことは裁判員になる人々に対して失礼です。

私は死刑に対しても懲役刑に対しても、「こういう重い犯罪ならやむを得ない」といった、ある程度一般的な感覚が反映されるべきだとは思っていますが、これはきちんと情報が提供されることが前提だと考えます。

例えば、現在の日本では犯罪の厳罰化が進んでおり、無期懲役は事実上の終身刑となっていますが、裁判員にその情報がきちんと提供されなかったことで、「無期懲役だと、そのうち刑務所から出てきてしまって困るから死刑にしよう」と判断されては大変なことになります。

情報がないままに命に関わる重い判断をさせるということは、あってはならないことです。

世界では薬物注射による死刑執行が主流となりつつあるなか、なぜ日本は今も絞首刑を続けているのか_5
すべての画像を見る

私は死刑存置派ではありますが、日本が今後も死刑制度や絞首刑を採用し続けるのであれば、法的な裏付けとともに「この方法は『残虐な刑罰』に当たらない」ということを国際社会に対して発信し続ける必要があると考えています。

執行のやり方も含めて、細かい段取りも議論し、ルール化することが大切。法律で決められていないというのは、法治国家としては一番まずいことです。

また、死刑の議論は、ともすると存続か廃止かという話に収れんしがちですが、まずは実態を明らかにする必要があります。

私は研究者として、議論の材料を人々に提供する責任があると考えていますので、情報が出されないことを嘆くばかりではなく、これからも公文書などの資料を地道に調べていこうと思っています。

文/永田憲史

「死」を考える
『エース』編集室
「死」を考える
2024/5/24
1,980円(税込)
328ページ
ISBN: 978-4797674477

孤独死、絶望死、病死、事故死、自死、他殺……

なぜ人は、年を取るごとに「死への恐怖」が高まっていくのか。

人は必ず死ぬ。だからこそ、人は「どう生きるべきか」を、みな考えている。

死から考える「人生の価値」、不死が人を幸せにしない理由、日本と諸外国との死生観の違い……医学・哲学・倫理・葬儀・墓・遺品整理・芸術・生物学・霊柩車・死刑制度などの専門家に、死への「正しい接し方」を聞く。

第1章 死を哲学する
養老孟司、香川知晶、鵜飼秀徳、内澤旬子、宮崎 学、永田憲史

第2章 死の科学
小林武彦、石 弘之、岩瀬博太郎、今泉忠明

第3章 死の文化的考察
小池寿子、中村圭志、井出 明、山本聡美、坂上和弘、安村敏信、安田 登

第4章 死と儀礼と
山田慎也、長江曜子、小谷みどり、町田 忍

第5章 身近な人を葬る――死の考現学
小笠原文雄、古田雄介、木村利惠、坂口幸弘、横尾将臣、田中幸子、武田 至

amazon