「すべての数値が疑わしいんですよ」

——技工士には定年はないものの、70歳ぐらいの方たちが「ヤメどき」を探しているとも聞きます。さらに養成校もピーク時の3分の2以下に減っている現状では、技工士不足はこれから深刻化してくると思いますが、そうなると一般の方にはどんな影響がでますか?

単純に今と同じようには歯が入らなくなりますね。ただ、難しいのは人口も減っているし、歯が悪い人も昔より減っているんですよね。

「8020運動(80歳になっても20本以上自分の歯を保とう)」の達成率が52%と言われているこの時代に、人口に対して歯科医師が何人必要で、歯科医師に対する技工士の適正数が何人なのかもはっきりわからない。

われわれは2年に一度、就業を届け出することになっていますが、届けてない人もいる。そうなると、すべての数値が疑わしいんですよ。

ただし技工士が高齢化しているのは間違いないし、その人たちの引退が遠い未来ではないのも事実です。そうなれば技工士の数は一気に減ります。

——30年ほど前は、歯科技工士は人気職種だったはずですが、ここまで“なり手不足”が進んだのはなぜでしょう。

これは本当に単純な話で、逆になぜ人気だったのかといえば、「儲けられたから」だと思いますよ。私が技工士になったころは、歯科技工所オーナーは実際に儲かっていました。

今と何が違うかといえば、昔は自費負担(金歯)も多く、そのため収入も多かったと聞いています。しかし歯科技工所の数も多くなり、保険技工では価格競争が始まり、低賃金、長時間労働等の噂が広がったことも原因の一つだと思います。

また、たとえば保険の利かないセラミックの前歯(自費)は、私が技工士を始めた約40年前にはだいたい10万円だったのが、今は6〜7万円ですよ。ほかの物価と比べたら20万から30万ぐらいになっていないとおかしいのに。

インプラントも然りで、出始めのころはウワモノまでついて30〜40万円だったものが、今は半分で入る歯科医院もあります。

要するに歯科医も自費の料金を低く設定し始めているんです。そういう意味では、歯科医の考え方が変わらないとわれわれの業種もきついんですよ。

歯科技工士がつくった歯が入らなくなる?
歯科技工士がつくった歯が入らなくなる?

——かつての「良き時代」にも保険はあったかと思いますが、儲かっていたのは自費の部分が大きかったと。

当時は単純に、需要に対して技工士の数が少なかったんでしょうね。歯科医師会立の学校ができましたからね。「これからは技工士が必要」ということで、歯科医師会が各会館に技工学科を作ったんです。

つまり、「産めよ殖やせよ」の時代だったんですよ。さらに以前は歯科技工所に仕事を依頼するため歯科医が直接模型を持って来ていたと聞いています。

それが技工士の数が増えて、単純に過当競争になり、料金競争にさらされるようになった。しかし、今でもしっかり保険であれ、自費であれ儲けを出している歯科技工士はたくさんいます。要は、自身の技術力、知識力だと思いますね。