麻婆豆腐はなぜ、ここまで日本の食卓に定着したのか? 1959年料理番組で初めて「マポドウフ」と紹介された四川料理が“テレビの申し子”といえる所以
麻婆豆腐――刺激的な辛さが持ち味の四川料理でありながら、ここまで日本の食卓に溶け込んだ料理はなかなかほかにはない。その背景にはメーカーのCM戦略があった。
世相とともに揺れ動いてきた日本人の味の嗜好に迫った「味なニッポン戦後史」より一部を抜粋、編集してお届けする。
味なニッポン戦後史#2
麻婆豆腐はいわば「テレビの申し子」だった
麻婆豆腐研究会『麻婆豆腐大全』(講談社、2005年)によれば、「麻婆豆腐の素」のテレビCMがオンエアされたのは発売の翌年だった。もともと丸美屋は新商品の宣伝媒体として、テレビというメディアに早くから注目していたという。
当時、すでに創業からの主力商品であるふりかけの名前とブランド力を、CMを通じて浸透させていた。「麻婆豆腐の素」でも同じ手法がとられ、「発売当時には15秒、30秒といったいわゆる『CMタイム』だけでなく、生放送の情報番組の中に実演CMを挿入することもあったほど」だった。
丸美屋の麻婆豆腐のCMといえば、「麻婆といったら丸美屋〜」という決めフレーズとともに、1992年からCMに出演してきた三宅裕司の顔が浮かぶ。
ちなみに初代の看板タレントは食通で知られる俳人の楠本憲吉だった。テレビCMに力を入れる戦略は昔からのお家芸だったのである。
その効果は絶大で、1977年(昭和52)には5000トンまでに市場規模は拡大し、そのうち丸美屋がシェアの半分を占めるようになった。
1960年代にテレビの料理番組を通じて知られるようになった麻婆豆腐という新しい異国の料理。それをさらに有名にしたのもまたテレビのCMだった。麻婆豆腐はいわばテレビの申し子だったのである。
文/澁川祐子 写真/shutterstock
2024/4/5
968円(税込)
224ページ
ISBN: 978-4797681406
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