オーディション審査員は脂ぎったおっさん一人
当然、半年間を待たずに逃げ出す女性もいるけど──それをランナウェイというらしい──ほとんどの女性は半年間、がんばってお金を貯め、それから帰国して、貧しい暮らしをする両親のために豪邸をドカンと建てる。しばらく気楽な時間を過ごし、結婚して子どもを儲け、育児が落ち着いたら、多くの女性が「もう一回、日本に行って稼ぎたい」と言い出すらしい。
そのときに人間ってすごいなって思いましたね。最初は嫌でも、大金が転がり込むとそんなに変わっちゃうんだって。もちろん、「騙された!」って嫌がる女性もいるんでしょうけど、多くは二度目や三度目の日本をめざすんですからね。
それに、親父の家でオーディションみたいなことをやったときもすごいんです。たとえていうと、むかしテレビ番組であった「スター誕生」みたいな感じ。
まぁ、審査員はだいたいフィリピンパブオーナーの脂ぎったおっさん一人なんですけどね。そのおっさんの前で、フィリピン女性が「これでもか!」っていうぐらいアピールをするワケです、露出度の高い水着を着てね。そりゃ、露骨な行為はしませんが、それに近いことはやる。
でも、彼女たちにとって、日本はなんとしてでも行きたい国になっていたんでしょうね。
で、タカログ語で「タタイ」(お父さん)と呼ばれていた親父は、「ダイスケ、わかった? いわばぼくは、『幸せ配達人』なんだよね」なんて、とぼけてやがる。
文/近藤令