大谷翔平よりも稼ぐクリスティアーノ・ロナウド

今日ではNPBの約13倍にもなるMLB選手の平均年俸は、過去40年ほどで高騰した。以下の数字は、1980~2020年におけるMLB選手の推定平均年俸の推移である。

1980年:14万3756ドル(約3248万円)
1990年:57万8930ドル(約8336万円)
2000年:199万8034ドル(約2億130万円)
2010年:301万4572ドル(約2億6226万円)
2020年:389万ドル(約4億1234万円)
※日本円は当時のレートで換算

まさに右肩上がりだ。1980年から2000年にかけての伸びがとりわけ著しいが(約15倍)、2000年から2020年にかけても倍増している。

MLBでは1970年代にFA制度が生まれ、一定の条件を満たした選手は各球団と自由に契約交渉を行えるようになった。

選手は自分を最も高く評価してくれる(最もいい契約をオファーしてくれる)球団と契約できるようになったので、当然、選手の年俸は上がっていく。

また、世界最大のスポーツイベントであるオリンピックが本格的に商業化したのは1984年のロサンゼルス夏季五輪からと言われているが、MLBを含むアメリカ4大スポーツの商業化もこのころから加速したのだろう。

放映権やスポンサーシップ、チケット収入などを最大化するノウハウが蓄積され、大学では「スポーツマネジメント」なる学問が体系的に学べるようになった。

アメリカで「ナショナル・パスタイム(国民的娯楽)」と呼ばれていた野球も、「マネーゲーム」化していった。ウォール街で働いていた金融マンやMBA保持者が次々と球界のフロント入りし、MLBをビジネスとして洗練させていった。その結果、選手の年俸はどんどん上がった。

今日、年収にして数十億円、時に数百億円という大金を稼ぐアスリートは、プロ野球選手だけではない。MLB以外のアメリカ4大スポーツやそれ以外のスポーツでも、今日のトップアスリートはとてつもない大金を稼ぐようになっている。

選手年俸の「インフレ」が凄まじいのはサッカーだ。『フォーブス』が2023年10月に発表した「世界で最も稼ぐサッカー選手ランキング」最新版によると、1位は同年からサウジアラビアのアル・ナスルでプレーするクリスティアーノ・ロナウドで、年間の総収入は驚愕の2億6000万ドル(約389億円)。

内訳を見ると、年俸やクラブの広告料などで2億ドル(約299億円)、ナイキなどとのエンドースメント契約で6000万ドル(約90億円)となっている。

2位はアメリカのインテル・マイアミに所属するリオネル・メッシで、総収入1億3500万ドル(約202億円)。3位はロナウドと同じくサウジアラビアのアル・ヒラルに移籍したネイマールで、総額1億1200万ドル(約168億円)となっている。

(画像)サウジアラビアのアル・ナスルと年俸299億円の巨額契約を結んだクリスティアーノ・ロナウド(CNBC 2022年12月30日)
(画像)サウジアラビアのアル・ナスルと年俸299億円の巨額契約を結んだクリスティアーノ・ロナウド(CNBC 2022年12月30日)
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大谷がドジャースと結んだ10年総額1015億円という契約は「アスリート史上最高額」と謳われたが、1年あたりの金額に換算すると101億5000万円で、ロナウドの年俸299億円には遠く及ばない。

ロナウドとアル・ナスルの契約は2年半という比較的短いものであるため、総額は大谷よりも少ないが、単年ベースで見るとその差は歴然としている。現在はアメリカでプレーするメッシも2017年に古巣のFCバルセロナと4年約5億5500万ユーロ(約860億円)という契約を結んだが、1年あたりの金額にすると約215億円。やはり単年ベースで見ると大谷の倍以上を稼いでいたことになる。

サッカーのスター選手たちが今日、異次元の高額年俸を稼いでいるのは、サッカーが世界で最も人気のあるグローバルスポーツであり、市場規模が圧倒的に大きいからだろう。

また、2023年はロナウドやネイマールをはじめ、多くのスター選手が超高額年俸でサウジアラビアのクラブに移籍した。世界有数の産油国であるサウジアラビアは、2030年または2034年のワールドカップ招致を狙っているとされ、国を挙げて世界のスター選手をかき集めている。

MLBでは選手の年俸高騰を抑制するため「ぜいたく税」などの規制をリーグ全体で取り入れているが、より自由競争的な選手獲得競争が容認されているサッカー界では選手年俸の高騰に歯止めがかからない。大金持ちのオーナーが「いくらでも払う」と言えば、どこまでも金額が上がっていく。

欧州でプレーしていたスター選手たちが次々とサウジアラビアのクラブと契約しているのは、まさにその結果だ。