「人は落ち込んだとき散財してしまう?」「なぜ〝$20.00〞より〝20.00〞のほうが売れる?」日常に潜む行動経済学
特に理由もないのに「なんとなく高いほうを買ってしまった」という経験はないだろうか? 感情によって不合理な行動をとってしまう人間と経済との関係を研究した学問が、行動経済学だ。
世界中でニーズが高まっている行動経済学をわかりやすく解説した書籍『行動経済学が最強の学問である』より一部を抜粋・再構成し、日常に潜む散財のリスクを明らかにする。
行動経済学が最強の学問である #1
なぜ〝$20.00〞より〝20.00〞のほうが売れるのか?
お金との心理的距離について、さらに面白い実験を紹介しましょう。レストランで2通りのメニューを用意しました。
・Aには「○○○ $20.00」と各料理に「$+金額」を表示
・Bには「○○○ 20.00」と各料理に「金額のみ」を表示
違うのは「$」の表示があるかないかだけ。メニューのデザインや、料理の種類など、その他の条件はすべて同じです。
結果、Bのメニューを受け取ったお客さんのほうが大幅に消費額が増大しました。
「$」という表示がないことで、頭では金額とわかっていますが、「お金を払う」という行動が心理的に響かず、簡単にお金を使ってしまったのです。
日本でも外資系ホテルや高級レストランでは、「2000円」とせず「2000」というように、算用数字のみのメニューを置いているところがあります。
自分が売り手側で売上を伸ばしたいなら「2000」と数字のみの表示にし、買い手側で節約をしたいとき、もし「2000」という表示になっているメニューを見たら、慎重になったほうがいいでしょう。
また、アプリ決済やeコマースではポイント制度も盛んですが、ここにも透明性を下げる「キャッシュレス・エフェクト」という企業側の戦略があります。
例えば「いつでも返品OK」というサイトは、お金ではなくポイントで返金され、「ポイント=お金」という感覚が薄らぐので、貯まったポイントを気軽に使いがちです。
カジノやゲームセンターでは現金をコインに替えて遊ぶのも同じ理由で、お金を溶かす仕組みがあちこちに潜んでいるのです。
写真/shutterstock
行動経済学が最強の学問である(SBクリエイティブ)
相良奈美香
2023/6/2
1,870円(税込)
368ページ
ISBN: 978-4815619503
ビジネスパーソンにとって、行動経済学ほど「イケてる学問」はない。現に世界のビジネス界では、その影響力はますます強まっている。
いま世界の名だたるトップ企業の間で、「行動経済学を学んだ人材」の争奪戦が、頻繁に繰り広げられている。1人の人材獲得に何千万円もの資金が動き、企業には「行動経済学チーム」までできている。
ビジネス界の要請を受けた世界のトップ大学が、次々と「行動経済学部」を新設し始めている。MBAのように、多くのビジネスパーソンが行動経済学を学びに集まっている。
もはや行動経済学は、「ビジネスパーソンが最も身につけるべき教養」となっているのだ。しかし、行動経済学は新しい学問であるが故に、これまで体系化されてこなかった。理論を一つ一つ丸暗記するしかなく、なかなか「本質」がつかめなかった。
そこで本書では、基礎知識をおさえた上で、「ナッジ理論」「システム1vsシステム2」「プロスペクト理論」から、「身体的認知」「アフェクト」「不確実性理論」「パワー・オブ・ビコーズ」まで、「主要理論」を初めて体系化するという、これまでにない手法で、行動経済学を解説する。
【目次】
■プロローグ いま世界のビジネスエリートがこぞって学ぶのが「行動経済学」
■ 序章 本書といわゆる「行動経済学入門」の違い
■ 第1章 認知のクセ――脳の「認知のクセ」が人の意思決定に影響する
■ 第2章 状況――置かれた「状況」が人の意思決定に影響する
■ 第3章 感情――その時の「感情」が人の意思決定に影響する
■エピローグ あなたの「日常を取り巻く」行動経済学