朝日新聞取材班への疑問
と、ここまで書いた日の晩に、現役の管理職(公立中学校)をインタビューしたところ、毛色の異なる話を聞いた。この管理職によれば、教師たちが疲弊して辞めていくのは「極端に自己主張の強い保護者」と「不登校」、「電子空間におけるいじめ」、「授業以外の雑務」への対応が主だった要因ではないか、と言うのだ。
「もっともっとお金が欲しいという気持ちは誰しもあるでしょうから、残業代を求めることを頭から否定する気はありません」
この管理職は大学を卒業後、誰もが知る大手企業で働いた経験がある。
「仕入れは叩け、売るときは盛れ、いくら儲けた、あいつを出し抜け……金儲けの物差し以外ではいっさい評価されない民間の企業で一度でも働けば、教員という労働がどれだけ人間的で、どれほど優しく、やりがいを持てる職業か実感できるはず。
ただ、これは民間企業の『駒』にならないと経験できない現場の感覚なので、研修で行ってもあまり意味がないような気もします」
続けて、管理職は自らの年収額も教えてくれた。
「都道府県でばらつきはありますが、ひっくるめて教師の報酬が安いとは思いません。いったいどんな『ほかの皆さんの仕事』と比べて、不当だと感じているのか」
たしかに、評者も驚いた。この管理職の年収は、同年代で一般企業に勤める正社員の平均所得の1.5倍をゆうに上回っていたのである。改めて、「何が教師を~」を読み直すと、「定額働かせ放題」や「残業代なし」が強調されているが、登場する教師たちの年収や平均的な所得など、具体的な数字はなにひとつ記されていなかった。あえて数字を伏せることに、どんな狙いがあったのかは推して知るべしだろう【5】。
「どうしても限られた予算しかないのであれば、教員個々人の所得を増やすより、学校職員の数を増やすことを優先していただきたい。これは『教員の数』という意味だけではありません。これまで、日本の教員は総合職でやってきましたが、ジョブ型にしないともう限界です。
常駐のスクールカウンセラー、どんな資格が必要なのかは分かりませんが地域連携の専門家、保護者対応時に立ち会う常駐のスクール・ロイヤー(弁護士のみ、の意ではない)、もちろん学校事務員も……」