〝働き損〟は嫌
同様の悩みを抱えている管理職は多そうだが、そもそも、現在20代の若者、いわゆるZ世代には指示待ちタイプが多い。これは、教育によるところが大きいように見受けられる。
まず、少子化の影響もあって、親や教師が子どもを大切にし、すべてお膳立てしてくれる環境で育ってきた。このような環境では、子どもが傷つくことも転ぶことも防ぐべく、周囲の大人は危険物を極力取り除き、危ないことは一切させないように配慮する。だから、子どもが自発的に何かをやる機会はどうしても限られる。
せっかく子どもが自分から「~したい」という意思表示をしても、大人に「危ないからダメ」と却下されることもあるはずだ。必然的に受け身になりやすく、自主性も育ちにくい。
また、試験では、あらかじめ正解が決まっていて、それに沿った答えを答案用紙に書くほど点数が高くなる。教師からの評価も、指示されたことをきちんと実行するほうが上がる。指示されていないのに、自分の頭で考えて余計なことをすると教師からの評価が下がることさえある。
そのため、指示されたことだけをきちんとやるほうがいいと子どもの頃から経験的に学習しつつ成長していく。当然、周囲の仕事の進捗状況を見ながら、気を利かせて、必要であれば同僚を手伝うような柔軟性はなかなか身につかない。
それに拍車をかけているように見えるのが高い〝コスパ〟意識である。最近の若者は、コストパフォーマンスに敏感で、「コスパが悪いから」という理由で恋愛にも結婚にも消極的になっていると聞く。
しかも、時間対効果を意味する〝タイムパフォーマンス〟、略して〝タイパ〟なる言葉も登場した。この言葉に如実に表れているのは、自分がかけた時間に対してどれだけの見返りがあるか、どれだけ満足を得られるかを重視する姿勢だろう。
このように効率のいい時間の活用を何よりも重視し、時間の浪費をできるだけなくそうとする若者が、同僚の仕事を手伝わないと聞いても、あまり驚かない。むしろ、当然のように思われる。
おまけに、頑張っても報われないとか、頑張るだけ無駄とか思い込んでいる若者も少なくない。こうした思い込みの背景には日本経済の低迷もあるように見える。Z世代が生まれた1990年代後半以降、日本経済はほとんど成長できないまま停滞しており、会社という組織の理不尽に耐えた〝見返り〟ともいえる終身雇用や年功序列の制度を維持するのが困難になった。
この情勢を目の当たりにして育った彼らが「辛抱して頑張っても、理不尽に耐えても報われない」と思い込むようになったとしても不思議ではない。
そのうえ、現在の勤務先への帰属意識が希薄になったことも大きい。昭和の時代であれば定年まで同じ会社で働くのが当たり前だったが、昨今は必ずしもそうではなくなった。それと軌を一にして、離職や転職に対して抵抗感をあまり覚えない人も増えたように見える。当然「どうせ定年までいるわけではないので上司の指示に従う必要はない。我慢して嫌な仕事を引き受ける必要もない」という認識が生まれやすい。
その裏には、たとえ自分が無理して頑張っても、会社の倒産やリストラに直面する可能性だってあり、そうなれば〝働き損〟になりかねないが、そんなのは嫌だという心理が潜んでいるのではないか。
このような心理はわからなくもない。名だたる大企業でも不祥事で迷走しているし、これまでは業績がよかった企業でも早期退職を募集している御時世である。そういう現状を見ると、誰だって不安になるので、自分が仕事で費やす時間にどれだけの見返りがあるのか、よりシビアに計算しようとするのは当然の反応ともいえる。
おそらく、現在の職場に将来性がそれほどないと判断すれば、早々に見切りをつけるだろう。在職中にスキルアップし、できれば資格も取得して、より有利な条件で転職したいというのが本音に違いない。そのためには時間を有効に使わなければならないので、他人の仕事を手伝うなんて論外なのかもしれない。