インスリンが多すぎると肥満に
恐ろしい話をしよう。私はあなたを太らせることができる。いや、相手が誰であろうと太らせることができる。いともたやすいことだ。インスリンを投与するだけでいい。
インスリンは体内で分泌されるホルモンだが、インスリンが多すぎると体重が増えたり肥満になったりする。
そもそもホルモンとは体に信号を伝える化学的な物質である。ホルモンは内分泌腺で構成される内分泌器で生成され、体の機能を維持するために分泌される。
脳にあるエンドウ豆ほどの大きさの下垂体では、体の各部分の代謝プロセスをコントロールするための様々なホルモンが生成されるため、「脳下垂体」は内分泌腺中枢と呼ばれることもある。
脳下垂体で生成されるホルモンには、たとえば骨や筋肉などの成長を促す信号である成長ホルモンがある。また、頸部にある蝶のような形をした甲状腺では、甲状腺ホルモンが生成されて全身に信号が送られる。
この信号を受け取ると、たとえば心臓の鼓動が速くなったり、呼吸が速くなったり、基礎代謝率が上がったりする。
これと同じように、膵臓ではインスリンというホルモンが生成されるのだが、インスリンはおもに食物エネルギーの吸収や蓄積に関する信号を送るホルモンである。
細胞に「ブドウ糖」を詰める
私たちが口にした食べ物は、吸収しやすいように胃や小腸で分解される。すべての食べ物はたんぱく質、脂質、炭水化物の3つの多量栄養素から成っているが、それぞれ消化のされ方は異なる。
たんぱく質は「アミノ酸」に分解される。脂質は「脂肪酸」に分解される。糖が鎖のようにつながってできた炭水化物は、「グルコース」(ブドウ糖)など分子量が小さい糖に分解される。
これに対し、微量栄養素とはその名が示すとおり、微量ながらも健康のために必要なもので、たとえばビタミンやミネラルなどがある。
インスリンの働きのひとつは、エネルギーを蓄積するために、細胞のドアを開けさせてグルコースを細胞に取りこむことだ。
ホルモンは標的細胞を見つけて、その細胞の表面にある受容体と結びつく。ホルモンが鍵で、受容体が鍵穴のようなものだ。正しいホルモンだけがその受容体を開けて信号を伝えることができる。
インスリンがまさにこの鍵の働きをするホルモンで、細胞の鍵穴にぴたりとはまり、グルコースを取りこむためのドアを開けさせることができる。
体内のすべての細胞が、グルコースをエネルギーとして使うことができる。インスリンがなければ、血液中を循環しているグルコースは容易に細胞の中に入ることはできない。