系列店は「アメトーーク!」で特集されたことも

「ひとつは店舗が入っている『マグネットバイ渋谷109』を所有する東急電鉄さんから借地権をお借りしていて家賃が安いこと。もうひとつは私自身、この本店だけは続けたいという思いがあるからです。弊社は他事業もやっており、その業績でなんとかお店を維持できています」(同)

その「他事業」のひとつがセンター街のど真ん中、渋谷警察署宇田川交番のすぐ横にある中華料理屋「兆楽」宇田川店だ。

よしもとの芸人もご用達の中華料理屋「兆楽」(撮影/集英社オンライン)
よしもとの芸人もご用達の中華料理屋「兆楽」(撮影/集英社オンライン)

「こちらも先代が始めたお店です。近くに吉本興業の劇場『ヨシモト∞ホール』があって、芸人さんが頻繁に通ってくださいます」(同)

この店舗は2022年10月22日放送の芸人トーク番組「アメトーーク!」(テレビ朝日系)で「兆楽大好き芸人」として取り上げられたこともあった。放送直後はその反響で大行列が発生し、料理人は鍋の振り過ぎで腕を痛めてしまうほどだったという。

「天津甘栗」も地の利を生かしてSNSやテレビで情報発信をすればいい宣伝になるだろう。しかし、それをしない理由を藤山さんは「おいしいものを作り続けていれば口コミで広がるはず。そんな商売の仕方が好き」と話す。それだけ熱い思いがあるからこそ、長年にわたっての常連客も多い。

甘栗を焼く専用の釜。なかには細かい石が入っており、水飴をまんべんなくかけながら3~4時間かけて焼く。水飴をコーティングするのは栗の甘味と水分を閉じ込め、しっとりした食感を出すためだという。この技術は日本人が考案したものだそうだ(撮影/集英社オンライン)
甘栗を焼く専用の釜。なかには細かい石が入っており、水飴をまんべんなくかけながら3~4時間かけて焼く。水飴をコーティングするのは栗の甘味と水分を閉じ込め、しっとりした食感を出すためだという。この技術は日本人が考案したものだそうだ(撮影/集英社オンライン)

「『渋谷に来たら必ず買います』『親子二代にわたって大ファンだ』などと言ってくださる方もいます。最近では、アジア系の方だけでなく、欧米系の観光客の方々もよく買われていきますね」(同)

今、藤山さんの長男がお店を継ぐために準備をしているところだという。まだまだ「天津甘栗」の看板を下ろすつもりはない。

取材の最後に、記者も変わり続ける渋谷の街並みを眺めながら「天津甘栗」を食べることにした。その甘い香りとホクホクとした食感は、きっと昭和30年代から変わらないものなのだろう。

藤山産業の藤山光男さん(左)と、「天津甘栗」店長の橋本正弘さん(右)(撮影/集英社オンライン)
藤山産業の藤山光男さん(左)と、「天津甘栗」店長の橋本正弘さん(右)(撮影/集英社オンライン)
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取材・文/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班