男子校の世界
東大の多くの学生たちはどのような環境から東大に入学するのだろう。一般的な傾向を見てみたい。
表4は2022年度の東大合格者数トップ20の高校リストである。この年の全合格者数は3085名で、トップ20の高校の合格者数は1317名。全合格者の42.7%にのぼる(その前年もほぼ同じ数値である)。
日本には4856校の高校があるが(2021年)、そのうちの20校(0.4%)が東大合格者の4割以上を出しているのである。「東大合格校」が異様なまでに寡占化していることがわかるだろう。そしてこれら20校の地理的分布は関東が15、関西が2、東海が1、九州が2で、鹿児島のラ・サール高校を除いて政令指定都市の通学圏にある。
トップ5には男子校が4校ある。トップ10では6校、トップ20では10校である(表太字)。これら10の男子校で計785名、全合格者の25.4%を占めている。実際にはこれ以外にも合格者がいる男子校はあるから、東大生のかなりの比率が男子校から来ていることがわかる。日本の全高校数に占める男子高校の比率は2%に過ぎないという現状を考えると、これがどれほど特殊なことかがわかるだろう。
なお、東大生の出身校の特殊性はジェンダーに限定されたものではない。トップ20内にある男子校は1校を除きすべて私立校で中高一貫を基本としているが、日本にこのような形の学校は非常に少ない。残りの1校も国立の男子中高一貫校で、これも日本にひとつしかない形態である。そもそも日本の高校の73%は公立高校だが、トップ20校に公立の学校は3校しかない。
一般的に、私立中高一貫校の学費は東大の授業料(2022年時点で年間53万5800円)より高額である。東大合格者数の多い私立中学・高等学校の学費と諸経費はおおむね年間で70万円から100万円ほどであり、さらに寄付金を求められるのが一般的だ。
加えて、このような進学校に合格するには小学生の頃から塾などに通って準備をしなければならない。東大の授業料は私立大学より安価ではあるものの、東大に入るには相応の教育投資がたいていは必要である。
東大が定期的に行っている学生生活実態調査(2018年)によると、東大生の92.6%が父親を家計支持者に挙げている(複数回答が可能なので、母親を選んでいる学生が39%いる)。父親の職業は「管理的職業」「専門的、技術的職業」「教育的職業」で7割を超えている。一方、母親は「無職」が34.2%で一番多く、次に「事務」が19.8%で続く。
家計支持者の年収は750万円以上が74.3%で、なかでも1050万円以上が39.5%もいる。日本では「児童のいる世帯の平均収入」は約746万円(2018年)であるが、それと比べると収入が高めであることがわかる。
このようなデータから浮かび上がるのは、東大の学生の家庭の多くは父親が主な家計支持者で、母親が専業主婦、あるいはパートとして家事と育児を担当し、子供の教育に投資する余裕のある都会の中流家族である。むろん、すべての学生がこのような家庭の出身であるわけではない。ひとり親の世帯もあるし、経済的に厳しい環境で育った学生も、人口の少ない地方から来る学生もいる。
しかし総じて言えば、東大生の多くは東京、東海、関西などの大都市圏に住み、管理職や専門職などに就く父親が収入を得て、母親が夫と子を支えるという、近代的なホワイトカラーの核家族像を「普通」のものとして育ってきた男性である可能性が高い。そしてその多くが中学1年生から教室に男子しかいない私立の進学校で学んできている。