マスメディアの誤解

今回のハマスの攻撃の理由の一つとして、マスメディアではイスラエルとサウジアラビアの関係正常化の交渉があげられた。長年対立していた両国が、アメリカの仲介で接近していた。ハマスは、パレスチナが置き去りにされるのではないかという危機感を抱き、関係を壊すために今回の攻撃を仕掛けたのだという理由づけである。

しかしである。一方で、イスラエルとサウジとの交渉の進捗が報道されたのは、攻撃が行われる少し前のことだ。他方、これほど大規模な攻撃をしかけるには、ハマスは準備を何年も前からしていた。実際に2020年頃から、ハマスは他の抵抗運動の組織と連携して、越境攻撃の訓練を行っていたこともわかっている。だから、イスラエルとサウジとの国交正常化の交渉は、攻撃の理由にはなり得ない。攻撃を準備している途中で、その動機を強めた要素の一つに過ぎない。

なぜ多くのメディアが誤解したかという理由は、はっきりしている。パレスチナ問題がほとんど注目されていなかったからである。このような大きな衝突がない限り、パレスチナがマスメディアで報道される機会はない。しかし、報道されていない時も、ガザや西岸ではひどいことが起き続けていた。そのことを知らなければ、いきなりハマスが攻撃してきて、「とんでもない」と考えるだろう。慌てて理由を探した結果、最近のイスラエルとサウジアラビアの交渉の話が出てきたのだろう。

【パレスチナ戦争】なぜイスラエルはハマスの奇襲を予期できなかったのか。第四次中東戦争時の奇襲との共通点_2
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不正確な地図

マスメディアでの報道で違和感を覚える点がもうひとつある。パレスチナ自治区についての不正確な地図である。地図は、イスラエルという国家の右側にヨルダン川西岸地区、左側にガザ地区が描かれ、この2カ所をパレスチナ自治区としている。

この地図を見ると、狭いけどもそれなりの生活があって、パレスチナ人が自治をしているのだろうから、何の文句があるのかという印象になる。なぜパレスチナ人が怒っているかが伝わらない。〝テロ〟を起こすほど抵抗する理由が伝わらない。しかし、実態はその印象と大きく異なる。

ガザは封鎖され、壁の向こうに移動できない。電気も水も食料も外から供給されるが、容易には運ぶ許可が出ないため、生活に支障を来している。ヒトとモノの動きが制限され、通常でさえ、自由な行き来ができない。海も封鎖され漁師も沖合まで出ての漁ができない。〝自治〟どころか息も詰まるような状況である。そして西岸は実際に〝自治〟が許されているのは、ごく限られた穴のようなエリアでしかない。その他はすべてイスラエル軍が管理し、あちこちにイスラエルの入植地がつくられている。その実態を示す地図が使われていない。

筆者は、その元凶は日本外務省の地図ではないかと考えている。なお、かつては高校の教科書の地図も同様だった。だが最近は改善されてきている。筆者も含め多くの識者が声を上げたせいだろうか。つまり外務省も新聞もテレビも、高校の教科書に正確性で負けていることになる。