自然の中で身体を使った学びは強い! AI時代に生きる知性の育み方【養老孟司×春山慶彦(YAMAP創業者)対談】_2
YAMAP創業者・春山慶彦

赤ちゃんは身体を通じて「比例」を学ぶ

春山 今の子どもたちは出力の部分がどれだけできているか、とても心配です。

養老 小泉さんも言っていましたが、人間の学習のプログラムは赤ちゃんがハイハイをはじめる頃から動きはじめていきます。なぜかというと、這って動き回るようになるというのは、自分の手足を使って世界の中を移動するという、とても知的な作業で、これが脳の発育にとても大事なのです。机の脚にぶつかったりして、そういうときは避けるものだということも覚えるし、何より動くことで景色に変化や広がりが出て、視覚入力が変わってくるでしょう。

ハイハイしていくと、見ている景色が近くに寄って、だーっと拡大してきますよね。何でもないようですけど、一歩近づくと少し大きくなって、もう一歩近づくとまた大きく見える。つまり、同じものでも距離によって違って見えてくるということを繰り返すことで、脳みそが情報をまとめて、「大きさは違っても、あれは同じものだ」というルールを自分で発見していくわけです。それがいわゆる「比例」というもので、遠くにあるものと近くにあるものは違って見えるから別のものだと思ったのでは困りますからね。

比例なんて、学校の算数で習うものだとどこかで思い込んでいるけれども、実はそうではなく、既に赤ちゃんの頃から感覚的に知っていることなんですよ。その感覚が優れている人を「カンがいい」と言うわけで、カンを磨くには、小さい頃から入出力をどんどん繰り返さないといけません。また、こういうことはバーチャルではなく、実際に乳幼児期に身体を使って学習することが大事なのであって、それがなければ誰かが動いているのを画面で見ても、すぐには理解できないと言いますね。

春山 逆に、感覚や感性が十分に養われていれば、知識はあとからでもキャッチアップできるということでしょうか。

養老 そうです。生まれつきハンディキャップがあって、自力で移動できない赤ちゃんは、言葉をはじめ、いろいろな発達が遅れてしまうことがわかっています。だから、出力ができるようにサポートする必要があります。たとえば、脳性小児麻痺でハイハイができないこどもには、ベルトを締め、そのベルトを持ち上げて体重を軽くしてあげる。その状態で這って歩けるように促すのです。そうやって少しずつ自力で動いて移動できるようにするのです。

春山 児童精神科医の宮口先生との対談の中では、図形の模写ができなかったり、丸いケーキを3等分した絵を描けなかったりするこどもたちの話が出てきます。空間に対する認知機能が著しく低い子たちの中から非行に走るケースが少なくないということでしたけれども、宮口先生が取り組んでいらっしゃる、図をきれいにトレースして描くような経験を積ませることも大事だと思いつつ、自然の中に入れば、一気にそういう認知能力が高まる訓練になるのではないかという気がします。

養老 そう思いますね。今の子はあまり外で遊ばなくなったようですが、外で遊ぶことは、こどもにとって本当に大事です。やっぱり自然のものを相手にするのは、おもしろいですよ。だから、こどもをまともに育てようと思うなら、自然の中で思う存分遊ばせるのが一番いいんです。

脳を育てるには、脳の入出力が大事だと言いましたが、それには知覚と運動の量を多くしないといけない。その話で言うと、外遊びの中でも、特に虫捕りがいいですね。これは僕が虫屋だからということだけではなくて、虫捕りをしているときは、さっき言った脳の入出力がほぼ理想的に回転しているのです。虫捕りでは、虫を見て、「いた!」と思ったら、身体を動かして捕まえる。その後も、自分で調べて、標本をつくって、考えて、また虫を見て……という具合に、ずっとインプットとアウトプットを繰り返すことができます。虫捕りは背景に自然がありますから、自と感覚が広がっていくというところもいいですね。

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都市化が急速に進み、子どものリアルな自然経験の少なさによる弊害が指摘されている。早期教育が過熱し、幼い頃から塾に通う。一見、学力が向上したように感じるが、それではAIと競合し、すぐに役立たなくなる知識しか身につかない。新たな時代を切り拓くような創造力、思考力、課題解決力はどのように育つのか?  本書は、現在急成長中のベンチャー企業・YAMAPの創業者の春山慶彦が、養老孟司、中村桂子、池澤夏樹とAI時代の教育について語り合った一冊。

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