生成AIはどの程度雇用を減らすか?
アメリカの投資銀行であるゴールドマン・サックスのレポートでは、生成AIが全世界で3億人分の雇用に影響すると予測されています。また、アメリカの労働者の7%が生成AIに代替されるとも述べられています。しかし繰り返しになりますが、この手の予測は占いのようなもので、参考程度に留めておくべきでしょう。
生成AIが今後いつどの程度進歩するのかという点について、コンセンサスはありません。また、どの程度の労働者が解雇されるのかは、経営者の心理に依存する部分もあり、そういう人の心理はなおのこと読みにくいです。さらに、雇用の変化は政府がどのような経済政策を実施するかにも左右されます。
したがって、生成AIによる雇用への影響の程度についての予測は定かではありませんが、影響を受ける職業が何であるのかは、論じやすいでしょう。わかりやすいのは第1章で述べたように、クリエイターです。デザイナー、イラストレーター、漫画家、アニメーター、作家、脚本家、作詞家、作曲家などがAIの脅威にさらされます。クリエイターというより、自分を表現する仕事と言った方がいいとも思いますが、ほかにもモデルや俳優も大きな影響を受けるでしょう。
すでに人工知能による代替が
始まっているモデルの仕事
京都にあるデータグリッド社は、「敵対的生成ネットワーク」(Generative Adversarial Network:GAN)と呼ばれるAI技術を得意としています。これは2014年に発表された新しい技術で、ありそうでない架空のモノの画像を作り出すことができます。
このAI技術は、図2‐4のように「ジェネレーター」(生成器)と「ディスクリミネーター」(識別器)から成り立っています。たとえば、犬らしい画像を作りたい場合、まずジェネレーターが犬っぽい偽の画像を作ろうとします。
ディスクリミネーターは、そうした偽の画像を本物の犬の画像から識別しようとします。ジェネレーターは犬っぽい偽の画像を本物に近づけて、ディスクリミネーターにばれないようにします。
両者が相手と「敵対」するように自分の目的を遂げようとして、結果、本物に近い画像が「生成」されます。
同社は、この技術を使って人の画像を作るサービスに注力しています。架空のアイドルの画像を作ったり、イメージナビという会社と組んで実在しないモデルの画像を売り出したりしていました。
これは2020年頃の話で、今ではその優位性は薄れてしまっています。図2‐5は、例のサブゼミに参加している学生がStable Diffusionで作った、架空の人物の画像です。
このように、生成AIの登場によって個人でも画像生成AIを使って、DIY的に人の画像を作れるようになっているのです。
ファッション誌の撮影などでモデルを1人雇うと、モデルの報酬のほかにカメラマンやメイク係の人件費など、多額の費用が掛かります。それに対しAIであれば、モデルの画像を簡単かつ低コストで量産できます。
個性やカリスマ性のあるモデルは生き残れるでしょう。しかし、ビジュアルが良ければ誰でも構わないというのであれば、それはAIで代替可能になってしまいます。
生成AIによる架空のモデル画像は、もう十分商用利用できるレベルに達していると言っていいと思います。すでにネットでは、AIの作ったモデル画像が広告に採用されています。特に、マッチングアプリの広告などに多用されている印象があります。
雑誌では、『週刊プレイボーイ』(集英社)が、AIで生成した架空のグラビアアイドルの画像を掲載して話題になりました。「さすがは週プレ!先端的」と私は感心したものでしたが、そのアイドルの写真集が発売されて、1週間くらい後に販売終了となりました。AIの生成物を商品化することに、もっと慎重であるべきだったとのことです。
今後『週刊プレイボーイ』のような雑誌は、ネットにあふれかえるであろう生成AIによるグラビア画像との激烈な競争にさらされます。なので、早めにAIの側へと飛び込んでいった方がよいかもしれません。
生成AIは静止画だけでなく動画も作れるようになってきているため、CMにも使われるようになるでしょう。アメリカではすでにAIのみで作ったコカ・コーラのかっこいいCMがあります。
CMも当然、生身の人間に出演してもらえば多額の出演料がかかります。それに、出演者の俳優などが不貞行為を働いたり、麻薬に手を出したりして商品イメージが傷ついてしまうリスクもあります。
反対にAIが作った架空の人物であれば、多額の出演料がかからないうえに、そういったトラブルとはまったく無縁なわけです。したがって、こうした架空の人物を使ってCMを作ることの利便性は高いと言えます。ただし、CMでは人間的な魅力のある人を起用する場合も多いため、AIでそのような人材を代替するのは難しいでしょう。