佐々木 2023年、SpaceXは98回もロケットを打ち上げているし、中国もロケット打ち上げ回数はかなり多い。今、宇宙開発が激動していて、各国がしのぎを削っている現状がありますよね。そもそもこういった探査機や衛星を打ち上げるのに必要不可欠なロケット技術はどの国がリードしていると捉えていますか?

宇推 アメリカ、というかSpaceXがダントツじゃないかな。

佐々木 やっぱり! 打ち上げ回数や成功率からしてもそうですよね。

宇推 それもあるけど、再使用ロケットを実践している点においてもですね。他の国も再使用を目指しているものの、描いているプランがSpaceXの後追いみたいなものだったりするので。そういう意味でもSpaceXが一強!って感じです。

【宇推くりあ×佐々木亮 特別対談】 JAXAのSLIMが世界初のピンポイント月面着陸成功! 宇宙はこれからもっと近くなる!? 未来の探査の可能性を語る_2
SpaceXのファルコン9ロケットの打ち上げの様子
すべての画像を見る

佐々木 実は、再使用はコスト面のメリットを得るには時間がかかると言われていますよね。SpaceXも打ち上げコストが抑えられることを売りにしていたけど、どちらかというと頻度を上げるためのメリットの方が大きいんじゃないかと。

宇推 再使用をすること自体にまずコストがかかりますしね。もっというと再使用する場合、1回使って問題がなくても2回目がうまくいくという保証はない。そこをクリアする整備や試験をするのも結構大変。新品を使う場合は1回目の打ち上げ条件にあわせて最初から整備ができるけど、再使用の場合は1回目の打ち上げの影響や、2回目の打ち上げ条件でも整備する内容が変わってくるだろうし……。SpaceXはそういった課題を乗り越えて、今ロケットを打ち上げまくっている、というのがやっぱりすごいですね。

佐々木 月、そして火星探査を視野に研究開発が進んでいて、さらにもっと先の「深宇宙探査」もあるわけですが、深宇宙探査でロケットの役割はどう変わっていくと思いますか? 例えば月面での輸送手段だったり、惑星間の移動手段になる可能性は?

宇推 重力が少ない天体だと、着陸はしやすいはずだし、地球よりはロケットも飛びあがりやすそうですよね。例えば人間が住めそうな天体があったとして、その周りにゲートウェイ(※1)みたいな中継拠点があった場合、拠点や惑星間をつなぐ輸送・移動手段はロケットでしかできないんじゃないかな。とはいえその前に、中継拠点を作るために地球から大量の物資や人を運ばなければならないことが一番大変だし、火星探査の最初のハードルは到達するのに半年くらいかかる、という距離的なものだったりしますけど。

佐々木 ロケットには、いろんな未来の応用が考えられますね。そのためには進化していかないといけないと思うんですが、具体的にはどういうテクノロジーの進化が必要になりますか?

宇推 大型化や地球から打ち上げる頻度といった面ですね。そこを一番打破しそうなのはやっぱりSpaceX。「スターシップ」という大型ロケットの試験を今繰り返していて、搭載できる重量も桁違いなんですよね。多分SpaceXが月からさらに火星へ本格的に向かい始めたら、ロケット技術の進化もぐぐぐ、と一層進んで行く予感はします。あと、中国のロケットもかなり大きいものがあるらしいですよ。頻度の面では、射場の数を増やしたり、ロケット製造ラインの強化も必要になってくると思います。SpaceXはロケットの再使用をすることで、少ない製造機数でも多く打ち上げができているから、この点もかなり大きいのかな。

佐々木 他には例えばエンジンの違いとかも進化につながるんですか?

宇推 エンジンそのものというよりもまず燃料が大きいですね。これまでは固体燃料が使われたこともあったし、液体水素と液体酸素を組み合わせた推進剤だったり、ケロシンという灯油の一種が使われたり……と色々な変遷がありました。今はメタンが注目されてますね。

※1 月周回有人拠点(Gateway)。米国の提案のもと、主にISSに参加する宇宙機関から構成された作業チームで開発が進められている、月面及び火星に向けた中継基地。国際宇宙ステーションの約6~7分の1程度の大きさになるとされ、2024年ごろから組立てフェーズに入ることが計画。将来的には4名の宇宙飛行士による年間30日程度の滞在が想定されている。